ぬいぐるみのおまじない
宿木 柊花
笑ってくれますように
ふかふかボディーに視野の広い目、微細な音まで聞き取れる長い耳。まん丸お腹は破裂寸前だけど、お尻のビーズで抜群の安定感。
ボクを作ってくれたのは一途でちょっぴり不器用なAちゃん。
Aちゃんはトラブルに巻き込まれやすい彼氏K君のお守りに一生懸命ボクを作ったんだ。
ボクを作るためだけに【おんせんやど】に
Aちゃんの愛には驚きだね。
それにね、なんとAちゃんは魂の一部をくれたんだ! ほらフーッてするあれで。
だからボクはしっかりK君を見守らなきゃいけないんだ。
あ、K君帰って来たよ。
K君は今日も朝日と共に帰ってきた、お仕事忙しいんだね。太陽と交代勤務なんてまるで月みたいだね。
あ、スマホで誰かと話しはじめたよ。
「おうB子、今日アイツいないからどう?」
『えー良いけどぉ、あたし都合の良い女じゃないんだけどぉ』
K君は何やら『おんおん』と犬みたいに
「大丈夫大丈夫もうB子が本命だって、アイツはビジネス抜きなんて重すぎて無理。それに今時量産型メンヘラなんて
『うわ~Kマジひどすぎ』
下品な笑いがK君の広い寝室にこだまする。
Aちゃん大丈夫かな?
ほどなくして知らない女性が現れた。
女性はボクに気づくと「かわいい~」と抱きしめる。苦しいけどボクの柔らかボディーには誰もがメロメロになるんだ。そうAちゃんが作ってくれたから。
女の人の長い髪は色素が薄く、黒く囲まれた目はパンダみたいで、香水なのかすごく頭がクラクラする。
「壊すなよそれアイツが毎週見に来るんだ。そんなことより」
女性を背中から抱きしめ、向かい合った二人はボクの目の前で熱く唇を重ねる。
ボクはもう我慢できなくて怒り爆発。
こんなのひどいよ、Aちゃんは人一倍繊細で傷つきやすくて不器用なんだよ。
ぬいぐるみのおまじない 宿木 柊花 @ol4Sl4
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