ぬいぐるみのおまじない

宿木 柊花

笑ってくれますように

 ふかふかボディーに視野の広い目、微細な音まで聞き取れる長い耳。まん丸お腹は破裂寸前だけど、お尻のビーズで抜群の安定感。


 ボクを作ってくれたのは一途でちょっぴり不器用なAちゃん。

 Aちゃんはトラブルに巻き込まれやすい彼氏K君のお守りに一生懸命ボクを作ったんだ。

 ボクを作るためだけに【おんせんやど】に一月ひとつきも泊まったんだって。

 Aちゃんの愛には驚きだね。

 それにね、なんとAちゃんは魂の一部をくれたんだ! ほらフーッてするあれで。


 だからボクはしっかりK君をいけないんだ。


 あ、K君帰って来たよ。

 K君は今日も朝日と共に帰ってきた、お仕事忙しいんだね。太陽と交代勤務なんてまるで月みたいだね。

 あ、スマホで誰かと話しはじめたよ。

「おうB子、今日アイツいないからどう?」

『えー良いけどぉ、あたし都合の良い女じゃないんだけどぉ』

 K君は何やら『おんおん』と犬みたいにあごを突き出しながら、脳を半分も使っていないような顔で笑ってる。

「大丈夫大丈夫もうB子が本命だって、アイツはビジネス抜きなんて重すぎて無理。それに今時量産型メンヘラなんて流行はやらないから。でも、ま、アイツ金だけはあるんだよね」

『うわ~Kマジひどすぎ』

 下品な笑いがK君の広い寝室にこだまする。

 Aちゃん大丈夫かな?


 ほどなくして知らない女性が現れた。

 女性はボクに気づくと「かわいい~」と抱きしめる。苦しいけどボクの柔らかボディーには誰もがメロメロになるんだ。そうAちゃんが作ってくれたから。

 女の人の長い髪は色素が薄く、黒く囲まれた目はパンダみたいで、香水なのかすごく頭がクラクラする。

「壊すなよそれアイツが毎週見に来るんだ。そんなことより」

 女性を背中から抱きしめ、向かい合った二人はボクの目の前で熱く唇を重ねる。


 ボクはもう我慢できなくて怒り

 こんなのひどいよ、Aちゃんは人一倍繊細で傷つきやすくてなんだよ。

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ぬいぐるみのおまじない 宿木 柊花 @ol4Sl4

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