「げっへっへ!ぬいぐるみに盗聴器仕込んでやる!」
どくいも
ある男の奇行
「えへへ、私ってこのぬいぐるみが好きなのよね~♪」
(ぐっふっふ、イイことを聞いたぞ!)
某所某県のとある学校。
そこにとある男と女がいた。
片方の女は、かわいいクラスの人気者の女学生。
彼女は、クラスで5本指に入るが3番指に入らないくらいの可愛さを持つ女の子。
もっとも、その性格や愛嬌の良さは学校でもトップクラスともささやかれ、彼女にはファンクラブがいるぐらいには人気のある女の子であった。
方はもう一人の男はクラスでも3本指に入るほどのブサイクな男学生。
もっとも、現在の彼の怪しさは学校全体でもトップクラスなのは間違いない。
(いままで、彼女を遠くから眺めることしかなかったが…これはチャンスだな!)
(まってろ!さっそく件のぬいぐるみを手に入れて、それに盗聴器を入れて、彼女の私生活を丸裸にしてやるぜ!)
かくして、彼は邪な思いを胸に作戦を実行しようとるのであった。
そして、後日。
「んぎぃいいいいい!!!
裁縫と分かんねぇぇ!!!」
無事、その男の作戦は失敗していた。
そうだ、そもそも限定品のぬいぐるみに手を加えることすら困難なのに、それをぬいぐるみ好き相手に違和感なく行うことなど素人には到底困難。
このストーカーに過ぎない男にできるわけもなかった。
「プロに頼むか?
……いやそんな金はねぇ。
ならどうする?」
かくして彼が考えた末だした結果は……。
「え?こんな時期に、男子が、手芸部に入部したい?
い、いいけど……理由は?」
「愛のためです」
かくして、彼は手芸部へと入部することにした。
幸い手芸部の入部については、困惑されつつも、そのやる気と部員が少なくて廃部の危機であったので、彼の入部は温かく受け入れられることになった。
そうして、入部から数か月。
わずかな期間ではあるが、彼の熱意は本物であり、裁縫の腕はみるみる上がることになった。
「……というわけで、とりあえず、拙作ながらぬいぐるみを作ってみました」
「おお~!すごいすごい!
それにとってもかわいいし、縫い目もきれい♪
これなら売り物にもなるレベルなんじゃない?」
「……いえ、まだまだ、目標には程遠いです」
「う~ん、相変わらず新入部員くんは固いな~?
もっと誇っていいんだぞ?」
実際にすでにこの男の裁縫レベルは、並の手芸部員を超え、もはや一芸レベルまで達していた。
しかし、それでもなお彼は自分の裁縫の腕に満足していなかった。
(……そうだ!この腕じゃまだ、まだあのぬいぐるみに違和感なく再分解した後に、盗聴器を仕掛けられるほどじゃねぇ!
あの、一流の縫いとさわり心地、綿のバランスには達してねぇんだ!)
なぜなら、彼の目標とする【大人気の一流ぬいぐるみに違和感なく盗聴器を仕掛けられるレベル】には達していないからだ。
かくして、彼は強大な下心を秘めながら、日々手芸部員としての腕を高めていく。
――がそんな彼にある日、悲劇が到来する。
「というわけで、ようやく手に入れられたんだよ!
限定品のテディベア~♪」
「なん……だと……!!」
そう、なんと件の標的であった女学生が、先にその限定品のぬいぐるみを自力で手に入れてしまったのだ。
こうなればもう彼が限定品ぬいぐるみをプレゼントしようとも、それは受け取ってもらえないだろうし、それに盗聴器を仕掛けたところで意味もない。
「お、俺の今までの努力は……」
かくして彼は絶望した。
その絶望のまま、手芸部をものすごく惜しまれながらも自主退部。
ついでに自分の作ったその練習用ぬいぐるみたちも捨てようとした。
「そ、そんな!そんなかわいい子たちを捨てるなんてかわいそうだよぉ!
捨てるくらいなら、私にちょうだい!!」
が、そこで待ったが入った。
なんと彼が自分の作ったぬいぐるみ捨てようとしたとき、偶然件の女学生と遭遇。
そして、そのぬいぐるみを引き取るといわれたのだ。
「え、で、でも、このぬいぐるみは、すごいもんじゃないよ?
ひ、ヒナさんが、も、持っている限定品のぬいぐるみとは比較にならない、く、くらいに」
「そんなことないよ!
このぬいぐるみさん達は、どれもすごくかわいいし、愛情が込められてる!
それに私の新しいテディベアも、こんなかわいいお友達が欲しいと思うの。
だからさ、倉井君が良ければだけど、私にその子達、譲ってくれない?」
ストーカーするほど好きであった人に自分の名前を呼ばれた事実。
さらには、情熱的とはいえ自分の努力が認められたことに、二の句も告げずにOKを出すストーカー。
これがもしこの男が健全な男子学生なら、ここではうれしいで終わるのであろう。
が、残念ながら、こいつはストーカー。
(……っは!これはつまり、自作のぬいぐるみに盗聴器を仕掛けられれば、結果的にちゃんと彼女に盗聴器付きのぬいぐるみを渡せるのでは?)
「……なぁ、君さえよければだけど、これから先も、俺はちょくちょくぬいぐるみを作ると思うんだ。
だから、よろしければそれももらってくれないか?」
かくして、ゲスな考えの元、その男は彼女にあくんじゃの提案をして……。
「えぇ!いいの?
ありがとう!」
彼女はその提案に乗ってしまったのであった。
それから数日後、彼は件の女の子に渡すべく、新しいぬいぐるみを自作。
さっそく、その自作ぬいぐるみに盗聴器を仕掛けようとしたが……。
「……いや、流石に1つ目からそんなものを仕掛けたら、いろいろとバレバレだな。
今回はいったん普通のを渡して、次回盗聴器を仕掛けることにしよう」
「わぁ!猫さんのぬいぐるみ!
とってもふわふわでオメメもかわいい!ありがとう!」
幸か不幸か、彼は再び普通のぬいぐるみをプレゼント。
特にトラブルもなく、ぬいぐるみのプレゼントが終わった。
そして、2回目。
「ん~~、このサイズのぬいぐるみだと、盗聴器を入れると触っただけでばれる可能性があるな。
いまから、サイズごと作り直すわけにもいかんし、今回もあきらめるか」
「わ~い、ハムスターさんだぁ♥」
3回目。
「今回はリクエスト受けてしまたからな。
ともすれば、当然入念にチェックされるだろう。
盗聴器を仕掛けるのはリスクが高い、次回だな」
「ふぉぉ~~!アザラシさんだぁ!ふわふわ~♪」
4回目。
「え?俺の好きな動物?
そんなもの言われても、あんまり思いつかなくて……」
「なら実際、一緒に決めようよ!
今までもらったぬいぐるみのお礼も兼ねて、一緒に動物園に行こう!
チケット代は、私が払ってあげるから!」
5回目。
「というわけで、次は好きなお魚さん!
一緒に水族館に行ってきめよう!」
6回目。
「ねぇねぇ!倉井君、今度実際にぬいぐるみを作ってるところを見せてよ!」
7回目。
「ごめん!倉井君、私のぬいぐるみさんが一人ケガしちゃったの!
私の家に来て、治療してくれない?」
8回目
9回目
10回目
・
・
・
・
「というわけで、倉井君。
よければ、私と付き合ってください!」
「……はい?」
そうして、それから数か月後。
結局、ぬいぐるみに盗聴器を仕掛ける機会を見失ったまま、ずるずると日数が過ぎ。
その結果、こんなことになってしまった。
「よ、よかった~~!!
告白が成功してよかった~!」
「え、あ!
い、いやこれはその、あくまで聞き返しのハイであって、告白に返事したわけでは……」
「……え?それじゃぁ、やっぱり私なんかじゃいやで……」
「いや、そんなことはないです。
よろこんでお付き合いさせてください。」
「……だよね!」
はじめはこちらが見ているだけで存在であったはずの彼女に告白され、思わずフリーズしてしまった元ストーカー。
が、それでも彼女の涙眼を見てしまったがゆえに、当然告白を断るわけにもいかず、返事はYES。
「それじゃぁ、これからは不束者ですが、よろしくお願いしますね!
倉井君♪」
こうして、元ストーカーの彼は、驚くほど不純な動機であったはずなのに、最終的には彼女と合意の上で付き合うことができるようになりましたとさ。
めでたしめでたし。
「……新入部員君。
あの女のせいで……!!」
なお、それから数日後、手芸部の部長がカチコミ。
手芸部部長と彼女の間で、元ストーカーをかけた仁義なき戦いが繰り広げられることになるのは、また別のお話である。
「げっへっへ!ぬいぐるみに盗聴器仕込んでやる!」 どくいも @dokuimo
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