この傷跡も縫えれば

!~よたみてい書

第1話

「よし、出来た! 受け取ってもらえるかな? 喜んでもらえるかな? ふふっ」


 一か月はかかっただろうか。

 このぬいぐるみを作るのにずいぶんと時間がかかってしまった。

 しかし大好きなあの人のためならば、つぎ込んだ時間は惜しくない。

 むしろ充実感すらあった。


 まるで本物のような、とまではいかないけど限りなく近くなるように再現された、ふわふわに仕上がったキトーネ――猫のような四足歩行の動物――を眺める。

 うん、とてもかわいく仕上がっていた。

 自分で作った物に高評価を下してしまっては自画自賛になってしまうけど、本当に目の前に鎮座しているこの子は愛らしくて美しい容姿をしているので、褒める以外のことをしたら自分が抱いている感想に反してしまう。

 自分に嘘をついてどうするの。


 数日後。


 いざ出来上がったぬいぐるみをあの人に渡そうとした。

 しかし彼は受け取ってくれなかった。


 俺には似合わない。可愛すぎる。もっともらうのに適任な人が他に居るはず。

 そもそも、メローネ自身が家に飾った方がいい、似合うよ。

 そう言ってあの人はわたしをなだめたあと、自分の仕事に戻っていった。


 目から何かが溢れていく感覚がある。

 胸の少し上らへんもそうだし、喉も圧迫されている感じがする。

 この苦しみを伴う感情は、悲しみという奴だろうか。


 手に持っているぬいぐるみに視線を向けると、顔の部分に小さな水滴が付着していて、やがて体毛がその水分を吸収していく。

 天気は晴れなのに。


「どうしよう。きみの行くべき場所が無くなっちゃった」


 ぬいぐるみなのに、つぶらな瞳で見つめられているとなんだか気まずくなってしまった。


「もしもだけど、きみさえイヤじゃなかったら、その、わたしのお家に来るかい?」


 ぬいぐるみは返事を返さない。

 当たり前だ。


 だけど、自分の寂しい気持ちを埋めるために、この子の返事を聞かないまま身勝手に家族にすることと決めてしまった。

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