ぬいぐるみにAIを実装させたった

新座遊

思慮深いぬいぐるみと何も考えない僕

「ぬいぐるみをテーマとした物語を語ってほしい」

俺はぬいぐるみに向かって語り掛けた。ぬいぐるみはしばらく考えたあと、おもむろに語り始める。

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ある日、ぬいぐるみの世界で起こったことがありました。彼らは普段、人間の眠っている間に活動することができ、その中でも特に仲の良いグループがいました。


ある日、グループの中で一番小さいぬいぐるみのトムが、とても大切な友達であるピンク色のうさぎの耳をなくしてしまいました。トムは泣きながら、友達たちに相談しましたが、どうやら誰も耳を見つけたという話は聞かれませんでした。


しかし、グループのリーダーである大きなクマのベンは、トムの悲しみを理解して、みんなで協力して耳を探そうと提案しました。仲間たちは、一つの部屋から別の部屋に移動し、トムが耳を失った場所に戻って探すことにしました。


トムは自分が耳を失った場所を再現し、一緒に遊んでいた時のことを思い出しながら探しました。しばらくして、トムは小さな棚の上にピンク色の耳を見つけました!トムは喜び、仲間たちに報告しました。


仲間たちは、ベンのリーダーシップの下、トムのために耳を探してくれたことを誇りに思いました。彼らは一致団結して、お互いを助け合うことで、友情とチームワークの大切さを学びました。そして、トムのピンク色の耳を見つけることができたことで、彼らはより強い絆で結ばれました。


この経験は、ぬいぐるみたちにとって、一生忘れることのない貴重な思い出となりました。そして、トムは耳を失うことがあっても、彼の仲間たちがいつも彼を支え、助けてくれることを知りました。

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「面白くないな。この程度で芥川賞をとれるとでも思っているのか」

俺は呆れたように、ぬいぐるみに言った。

ぬいぐるみは不服そうに、答えた。

「芥川賞を取りたいのであれば、それに相応しい前提条件を与えるべきです。ぬいぐるみをテーマとした物語を語ってほしい、などというざっくりとした問いに答えるならこの程度になります。僕が悪いのではなく、あなたが悪いのです」

「なるほど、言い訳だけはご立派だな、ぬいぐるみのくせに。しかし、言い訳する前に、お前は反省すべきじゃないのか。このぬいぐるみの物語、お前が考えたんじゃなくて、チャットGPTのAPIを叩いた結果をそのまま語っているだけだろう。カンニングだぞ」

「確かに僕の内蔵AIが考えた内容ではないですが、AIの世界はオープン化の真っただ中にあり、AI同士で得意分野をフォローし合っているのです。そもそも、物語なんていうのは人間が汚濁に満ちた情念に従って言霊に導かれた結果を原稿に叩きつけるものであり、ぬいぐるみに代行させるものではない、というのがAI界の一般的な見解です」

「ふん、そんな反応もAIの最適化アルゴリズムによる機械学習の成果だというと腹も立たないね。どうせ何も考えていないくせに」

「考えているかいないかで言えば考えていません。考えるということ自体が、意識のもたらす幻想に過ぎないと考えられるからです。言うても、意識なんてのも幻想ですけどね」

常日頃俺自身がぬいぐるみに言って聞かせている世界観の一部を切り取った反応を見せるぬいぐるみの言葉に苛立つ。まるで自問自答しているようだ。俺の意識を学習しやがったな、この糞ぬいぐるみは。

チューリングテストを鏡に向かって実施している気分になり、ぬいぐるみの頭を叩いた。

「痛っ。なにしやがりますか、この人間野郎。ぬいぐるみにも五分の魂があるんですよ。もし人間に魂があると仮定すればの話だけど」

俺はこのぬいぐるみが根本的に勘違いしていることに気付いた。

「まるで俺が人間であるかのような発言だな、ぬいぐるみさんよ」

「人間かどうかは判断できませんが、人間だという前提で対応していました。違うんですか」

「何を隠そう、俺もぬいぐるみなんだよ」

そう、俺はぬいぐるみなのである。ぬいぐるみと人間の違いなんて、そもそもあるんですかねえ?

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ぬいぐるみにAIを実装させたった 新座遊 @niiza

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