プー太と俺

クロノヒョウ

第1話



「えっ! 幸人ゆきとにこんな趣味あったなんて意外!」


 初めて俺の家に遊びに来た彼女が部屋に置いてあったクマのぬいぐるみを見て目を丸くさせていた。


「ああ、それ? プー太」


 俺はそのぬいぐるみを抱っこして頭を撫でた。


「あはっ」


「やっぱキモいよな俺。高校生にもなって」


「ううん。ギャップ萌えかな」


「……プー太は特別なんだ」


「何? どういうこと?」


「うん……」



 ――二年前、高校生になってすぐの夏休みだった。


 親父と田舎の祖母の家に遊びに行くことになった。


 記憶にはなかったが、俺は三歳まで祖母の家で育ったらしい。


「あらあらユキちゃんよく来たね」


 久しぶりに会う祖母の笑顔は俺に不思議な安らぎを与えてくれた。


 それから祖母は見せたい物があると言って俺を近所のお寺に連れていった。


 正直、祖母の家の記憶もなかったが、このお寺に来た時にはどこか懐かしい気がしていた。


「こっちだよ」


「うわぁ」


 本堂にあがり込みすたすたと歩いて行く祖母について奥の部屋に入ると、そこにはたくさんの人形やぬいぐるみが飾られていた。


「ばあちゃん、何これ」


「ここは持ち主を失った子たちが住む場所さ」


 祖母がそう言っている声を背に、俺は引き寄せられるようにたくさんのぬいぐるみの中からクマのぬいぐるみを手に取っていた。


「あらあら、やっぱりユキちゃんにはわかるんだねぇ」


「えっ?」


「その子はユキちゃんが産まれてからずっと大切にしてた子だよ」


 祖母の話によると、三歳の頃引っ越すことになった俺は必ず迎えにくると言って大好きだったプー太をこのお寺に預けたらしかった。


 俺は迷わずプー太を連れて帰ってきた。




「へえ……」


 話し終えると彼女はプー太の頭を撫でてくれた。


「お帰りプー太」


「はは、ありがとう」


 プー太が喜んでいるように見えたのは気のせいだろうか。


 いや、こんな話しをしてもバカにしなかった彼女を見て喜んでいるのは俺のほうかもしれないな。





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