ポテチとコーラとひ神様
自殺者たちが殺し合っている中で、ひ神様は何をしていたかというと。
「う〜ん! やっぱり観戦にはポテチとコーラだよね〜。」
殺し合いの観戦を玉座でお菓子を食べながら楽しんでいた。
なんということだ。神がこれでは世も末である。
ひ神様の前には極薄テレビのようなものが浮かんでいて、それで自殺者たちのデスゲームを楽し……監視している。ちなみに、このテレビはキノネの腕時計と同じで、ひ神様がちゃちゃっと作ったものである。神に不可能などない。
ポリポリとうすしお味のポテトチップスを食べながら、人が死ぬシーンを愉快そうに見るひ神様は、どう考えてもクズである。
そんなひ神様の周りにはたくさんの白いスライム……天使が待機しているのだが、反応的に引いている。天使たちには、顔がないのだが、雰囲気でドン引きしているのが丸分かりである。それでいいのか天使。
どうやら、天使にキノネのような建前と本音を使い分ける能力はないらしい。そんな雰囲気の中にいるひ神様は、それに気付いているのかいないのか、ニコニコと極薄テレビ画面を見つめていた。
時折コーラを遠慮なくズーッと吸っては、
「あ、そこ、そこだ!」
「あ〜。アホかよ。なんでそこ行くんだよ。」
などと独りごちている。神様らしくない言動だが、それを指摘できるものはいない。なんたって、この世で一番のちからを持つ神様なので。
丁度、キノネとソウキが山へと迷い込んだ時に、ひ神様は呟いた。
「それにしても、意外とみんな人を殺さないなぁ。」
そう言うと、「つまんないの。」と唇を尖らせたひ神様は、拗ねた子供のようで、どう見ても神様には見えなかった。
「自殺で、自分の命を奪ってるんだから、人を殺すのも簡単だろうに。何がそんなに違うかねぇ。」
しみじみそう言うひ神様だが、自殺するのと人を殺すのは、同じ「命」を奪う行為でも、意味合いは変わる。
ひ神様は、どこからかテレビリモコンのようなものを取り出して、画面に向けてボタンをポチりと押す。すると、画面が切り替わり、死亡人数と残り人数が表示された。
「
百五十二人が死んだ。その人数だけで考えれば、とんでも多く感じるが、割合で言えば、三百人に一人しか死んでいない。逆に言えば、三百人に一人しか人を殺していない。いや、人を二人以上殺している人がいれば、もっと少ないだろう。
これは、神様の想定外であった。多ければ千人くらいがこの段階で、少なくとも五百人くらいは死ぬだろうと考えていたのに。人間というものはよく分からないな。意外と、仲間を作って仲良しこよしをする人が多いのもそうだ。
願いを叶えて貰えるのは、最後に残った一人だけであるのに。ひ神様には、それが不思議でならなかった。
北海道程の面積の土地に三万人なので、バラバラに人を配置すれば、そもそも人に遭遇しないので、展開が遅くなる。それを防ぐ為に、いくつかのグループに分けて、ある程度纏めて人を投入したので、人に会わないということは有り得ないはずだ。
しかし、死人がこれ程少ないと言うことは、会敵しても殺さずに仲間になったり、すぐさま逃げ出したり、隠れたりして戦いを避けたのか。
自殺したんだからイカれてるはずなのに、人は殺せないのか。それとも、自殺したからと言って頭がおかしい訳ではないのか。
観戦しながら、予想をたてる。
「う〜ん。生き残りそうなのは、ヒトハとシラカとヨウかなぁ。」
ひ神様が注目したのは、その三人だった。その発言に、天使がぷるぷる反応する。ちなみに、この天使は天ちゃんである。
「ヒトハさんって、あのガチムチの男の人ですか?」
「ん? いや、執着女の方。」
「しゅ、執着女……。」
そのあだ名に、的を得ているなぁ。と、天使は妙に納得してしまった。それ程に、あの女の執着心は凄まじいものだった。天使は、担当した天使の話を思い出した。
『アタイが担当した女ね、ヒトハさんって人なんだけど、ずっと男の名前を言っているの。ずっとよ? 怖いったらありゃしないわ。話も全然聞いてくれないし、襲いかかってくるし。』
天ちゃんは、自分が担当した人間がヒトハみたいな奴でなくて良かったと心から安堵した。
ひ神様は、ヒトハが生き残ると言ったが、彼女は戦いが有利になるアイテムを持っていない。このゲームでは、あのスマートウォッチ的な腕時計が命運を左右すると言っても過言ではない。
腕時計を持っている人と持っていない人では、生き残る確率が大分変わる。確実に、持っている人が有利だ。武力に自信がある人間ならまだしも、ヒトハにそんな様子は見受けられない。何故、ひ神様はこの女に目をつけたのか。
天ちゃんは、「同じ名前の人がいるから、やっぱり、名字がないと不便だなぁ。」なんてぼやく、ひ神様に
「何故、ヒトハさんが生き残ると思ったんですか?」
と聞いた。
それに、ひ神様は「う〜ん?」と唸る。
「そりゃ、愛が強い、狂ってるかわいい女の子が最後に残るって決まってるじゃん。」
「……はい?」
まるで世界の常識を説くような口振りで、意味がわからない返事をしたひ神様に、天ちゃんはぷるりと震えて、聞き返してしまった。その周りにいる他の天使たちも、頭にクエスチョンマークを浮かべている。
「だから〜。」
なんで分かんないかな〜。そう言いたげな顔で、断言した。
「かわいくて、人を愛する狂気的なまでに愛する、強くてイカれた女が勝つって、相場が決まってるじゃん。」
愛だけでは生き残れない。そう、反論したかったけど、それはひ神様に逆らうということなので、天ちゃんは黙った。
「まぁ、シラカかヨウ、もしくはその他が生き残る可能性もあるけどね。」
そう軽く言ったひ神様は、またテレビ画面に熱中する。
そんなひ神様を、天使たちは静かに見守った。その場には、極薄テレビから流れている、人が死んでいく音が響いていた。
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