犯人はぬいぐるみ使い!?

才式レイ

本編

 俺の妹はアニメ好きである。

 そう。オタクではなく、本人はアニメ好きだと主張していたのだから、その呼称を使うまで。オタクとして認識されるのが憚られるが、どう見てもオタクなんだから非常に困る。


 本人曰く、オタクの諸先輩方のことを大変尊敬しているからこそ、オタクの一員として認識されるのが忍びないとか。将来の夢は、大人になってからいっぱいお金を稼いで、オタク諸先輩方のように日本の経済を回すこと、と堂々と言い張るほどだ。それほど、重症とても言ってもいいだろう。

 そんな愛妹と喧嘩したのは、ついこの間のことだ。

 「女の子なんだから、せめて結婚貯金額が貯まってからにしなさい」、と優しく諭すように言うと、「それじゃあ遅いでしょ!」と逆ギレされた。あたかも自分の方に正義がある感じで、思い返すだけで腹が立つ。

 全く、どうして最愛の妹に逆ギレしなければいけないんだ。

 溜まった鬱憤を晴らすべく、この話を友達に伝えると……。


「いやいや、そらお前が悪いだろ」


「なんでだよ」


 ジョッキーを傾いて喉にビールを流し込むこの野郎は、高校時代からの悪友だ。俺の奢りだと言った途端、無遠慮に四五杯を頼んでやがった。なんという友達だ。


「いやいや、今時の高校生なんてもっと頭花畑だぞ? それに比べて、お前の妹ちゃんは泥の中に咲く蓮の花みたいだ」


「すまん。いきなり比喩表現を使うな。日本語で話せ」


「つまり、お前の妹はいい子なんだから、オレらのような社畜オジサンに縛られたら可哀想ってこと。そろそろ妹に自由にさせろや」


 当の本人はさり気なくそう言ったつもりではあるが、俺にとってそのセリフは物凄くインパクトがあった。

 それから、俺たちは夜が更けるまで飲み続けた。

 帰り際に「ちゃんと彼女と仲直りしろよ~」と言われてから、どうやってそれを成し遂げるのかと考える。彼女にプレゼントをあげようと考え至った。

 高校生にはない、大人にある力。それは何なのか。

 そう、金だ。社会人ならば、自分で使えるお金が一気に増えるが、払うべきものも増え……。って、この話は今どうでもいいじゃないか。

 ゲフンゲフン。それでお金の力で解決しよう、という話なんだけど。無論、最愛の妹が今ハマってるアニメを全部把握済み。いつでも彼女との話題が尽きないように、俺もリアルタイムで視聴したからな。内容がチンプンカンプンだったけど。

 そう、言わば、妹と会話するために俺はわざわざアニメという名の地獄を乗り越えたと言ってもいいだろう。そして、地獄を乗り越えた男に、限界などない。


 

 全財産を溶かして、好きでもないドラマCDを爆買いした。CDに抽選券がついてくる以上、抽選券を増やすにはCDを買うしかない。その結果、当選確率1%と言われてるファンミのチケットを無事入手した。そこで販売する期間限定ぬいぐるみも買った。そのぬいぐるみは彼女の推しキャラなんだから、絶対に喜ぶに違いない。

 お店でプレゼント用として包装してあったし、後は直接渡すだけだ。最も逆ギレされただけで、ここまで用意するのはちょっと大袈裟だと思うが……。


「ここまで来たからには、今更引くわけにはいかないな」


 1ヶ月を掛けて準備したプレゼントを握りしめて、実家の扉と睨めっこ。今年の春で彼女も高校を卒業して都内の大学に行くわけだから、渡すのは今しかない。そう自分に言い聞かせて、玄関で深呼吸。

 妙な緊張感に包まれる中、扉を押し開ける。


「あれ、兄貴。今日帰る日なの? おかえり」


 俺の顔を見て、 驚きを隠せない表情をする我が最愛の妹。コタツでぬくぬくくつろいでいらっしゃる。実に微笑ましい光景だ。

 彼女に逆ギレされてから、ろくに会話をしてなかったので、妙に落ち着きがない。

 「ほら、これ。お前の卒業祝いだ」、とプレゼントを渡す。


「ええー、まだ早いよ兄貴。まだ2月だよ? 」


 口先ではそう言ったものの、しっかりプレゼントを受け取ってくれた。


「ありがと。開けてもいい?」


 どうぞの手を出すと、彼女が顔に花を咲かせてコタツに戻る。プレゼントをテーブルの上に乗せて、丁寧に包装紙を解く。箱の蓋を開けて、ゆっくり中身を取り出す。

 「わぁ」と感嘆の声を漏らして、まじまじと推しキャラのぬいぐるみを眺める。


「え、これって……当選倍率1%だと言われてるマヂカ〇のファンミ豪華限定グッズ、今夜は寝かせないぞシークレットエディション、秋山順平あきやまじゅんぺいのぬいぐるみじゃないか! え、え、すごい! え、え、どうやって手に入ったの⁉」


 興奮気味で一気に熱弁する我が妹。というか、そのぬいぐるみにはそんな恥ずかしい商品名が付いているのか。

 最初は「え、え」と戸惑い気味だったけど、徐々に日本語にならない言葉で叫ぶことに数分後。彼女は鼻血を噴き出して、気を失った。


「ちょっ、おい、はなちゃん! 大丈夫かっ⁈」

 

 慌てて彼女の元に駆け寄って呼び掛けても、ふにゃけた笑顔が変わらずにそこにあった。けれど、彼女の鼻血が、床に小さなプールを作っていた。

 これ、かなりヤバいんじゃ……。そう思ったのも束の間。何者かに押さえつけられた。


「おのれこの不審者め! ウチのはなに何をしてくれたっ!!」

 

「親父、俺だ! お前の息子だ!」


賢一けんいち……。まさか、お前…………ついに自分の妹に手を出したのか! 許さんッ!」


 「ついにってなんだよ!」と反論できるよりも前に、親父は更に体重を掛けてきて、顔面が床に擦りつける。


「おい、母さん。警察はまだか!」


「だから、もうすぐって言ったじゃない! もう、そんなに怒鳴ることもないわ」


 警察という二文字を聞いて、ある見出しが脳裏に浮かんだ。


『前代未聞! 犯人は、ぬいぐるみ使い!?』


 ダサい! いくらなんでもダサすぎる!

 いやだ、妹よ。逝かないくれぇぇ! 

 このままだと兄が犯人扱いされちゃうよぉぉォォォォ!!!








あとがき

あらすじで書いた通り、これは酒の勢いで作った物語です。書く時は楽しかったけど、果たして読者さんに楽しんでもらえたのかどうか不安です(苦笑)。

前のお題に参加できなかったけど、今回は偶々時間があったから参加しました。結構楽しかったですので、時間があったらまた参加したいですね。

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