2 暗闇は光を理解しなかった

 この空間が好きだったのに――


 ずらりと新刊が押し寄せる。

 既に知られた物以外、その大半が返本されるかも知れないのに。


 同じ表紙ばかりを見る。

 雑誌にせよ、文庫にせよ、新書にせよ、単行本にせよ、包むのも、レジを通すのも、ほとんど同じ話題作ばかり。

 世界の出逢いが楽しいのに。


 いい本を返本する。

 自分の世界を拡げてくれる本は皆返本のダンボールに。

 全部買ってあげたいけれど、本屋は薄利なのでそのままに。



 いつもの質問ばかりが押し寄せる。


「あの話題の本は?」

 すみません。

 ここへの配本は僅かだったのです。

 次はいつ入るかもわかりません。

 あの有名店ではタワーになっているのに。


「今月のあの雑誌はもうないの?」

 すみません。

 売上げの大半だった雑誌はコンビニに取られました。

 新刊もネットに取られてます。

 今朝の紐掛けは大変でした。

 付録が人気の時はいつものお客さんにも売って上げられないんです。 


「今朝の新聞でみたのだけど」

 すみません。

 私はその広告を見ていません。

 うちは主要な新聞を全てとれる余裕はないんです。


 すみません。

 私はその中吊り広告を見ていません。

 車内広告で有名でも発行部数は少ない事も多いんです。


 すみません。

 私はそのラジオを聞いていません。

 最近はアーカイブも音声データで探すのが大変です。



 すみません。

 私はそのお子さんではないので、好みを知りません。

 私はそのお子さんではないので、参考書の相性はわかりません。

 私はそのお子さんではないので、読書感想文は書けません。


 すみません。

 すみません。

 すみません。


 この空間が好きだったのに――

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