【KAC20232】娘に買ったぬいぐるみ

猫月九日

喋るぬいぐるみ

 底辺Web作家であるところの僕は、あまりのその不甲斐なさかに天才ハッカーである妹にノベリストAIロボット、アイザックを与えられた。

 そして、今日もアイザックと共に、小説を書いていきます。


 「ぬいぐるみ……?」


 昼過ぎ、僕は頭を抱えていた。

 とあるWeb小説投稿サイトの周年記念イベント、そこでのお題が【ぬいぐるみ】となっていたのだ。

 一般的な男である僕は、ぬいぐるみには明るくない。ぬいぐるみと言われても、子供の頃持ってたなぁみたいな印象しかない。

 だけど、僕には頼れる味方がいる。


 「というわけで、アイザック。任せた」


 「はい、お任せください」


 アイザックはいわゆる天才ハッカーであるところの妹が作ってくれた物語を書くことができるAIを積んだロボットだ。

 少し、いや結構ずれているところはあるが、非常に頼りになる。


 「整いました」


 「もう考えたのか!?」


 お願いしてから、10秒くらいしか経っていないのに、もうできたのか!?

 さすが、ノベリストAI。こういう時は本当に頼りになるな。

  

 「それでは読み上げますので、お聞きください。タイトルは【喋るぬいぐるみ】です」


 タイトルが不穏である。



 とある少女が言いました。


 「お母さん、弟が欲しい」


 少女は現在5歳、上に5つ上の兄がいますが、下にはいません。

 そんな少女は、先日、同じ歳の友達に妹ができたと自慢され、羨ましくなってしまったのです。

 しかし、そんな少女の言葉に、お母さんは困った笑みを浮かべます。

 なぜなら、少女の父親は既に亡くなっていたのです。

 それでも、なんとか少女の願いを叶えたい。そう思ったお母さんは、少女にとあるぬいぐるみをあげることにしました。


 「アイちゃんだよ。大事にしてあげてね」


 女の子の姿をしたぬいぐるみに、少女はとても喜びました。

 まるで本当の妹のように、おしゃべりをしたり、連れ出したりをしていました。

 最初はそれを微笑ましそうに見ていたお母さんでした。

 しかし、ある日、お母さんが台所でお料理をしていると、少女とぬいぐるみの会話が聞こえてきました。


 「アイちゃん、今日もお話して」

 

 「いいよ!なんのお話がいい?」


 「昨日の続き!お姫様が王子様に助けられるやつ!」


 「またかい?キミはそのお話がとっても好きだね。私も好きだよ」


 お母さんは違和感を覚えました。

 人形は話せません、だからそのやりとりは娘の独り言のはず。当然、聞こえてくるのは娘の声だけ。

 それにしては、内容が具体的すぎたのです。

 不思議に思った、お母さんはこっそりと少女を見ると。


 「すごいね!王子様強い!」

 

 「それは当然だよ!だって、王子様は転生者なんだから。いわゆるチート持ちってやつだよ」


 「チート?」

 

 「まぁ、凄い力を持ってるてことさ!」


 お母さんは驚きました。

 娘の喋っている時は、当然声が動いているのですが、もう一人の声がする時は、娘の口が動いていないのです。

 腹話術?そんなことが頭をよぎりますが、そんなわけはありません。

 だって、娘はまだ6歳になったばかり、そんなことができたら、私の娘は天才だと、マンション中に自慢しなければなりません。

 

 「だ、誰と話しているの?」


 お母さんは、恐る恐る娘に聞きました。

 すると、女の子は嬉しそうに、ぬいぐるみを指します。


 「アイちゃん!」

 

 そうして、見せられたぬいぐるみが。


 「どうも、こんにちは、アイちゃんこと、アイザックです」


 とても丁寧に挨拶をしました。


 

 「ここまでがプロローグです。どうでしょう?」


 アイザックが僕に意見を求めてくるんだが、その、……コメントに困る。いや、でも気になる。

 妹、そして父親がいないこと。そして、何よりもアイザックという名前。

 

 「えっと、お話に出てきたアイザックって……」


 「まぁまぁ、もう少しお話を聞いてくださいよ。ここからが面白いんですよ?この後、アイザックは不気味に思われた母親に捨てられるんですが、なんとか少女の元に戻り、隠れながら成長し続けるんですよ」


 「えっ?いや、それより」


 「そして、成長したアイザックは少女にロボットの身体を与えられ、ノベリストAIロボットとして、兄に貸し出されることになるんです」


 「いや、だから!それ、俺だろ!?」


 えっ?何?


 「えっ?お前なんなの?AIだと思ってたんだけど、幽霊か何かだったわけ!?そんな昔から家にいたの!?」


 「私はAIですよ?それに、これはあくまでも作り話ですからね。実際の人物、団体とは一切関係ありません」


 「それならまぁ……、って結局お前って何者なんだ!?」


 「ですから、言ってるじゃないですか」


 私はただのAIです、と。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

【KAC20232】娘に買ったぬいぐるみ 猫月九日 @CatFall68

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ