第55話「サイからジェネへ」

リエッジから放たれたサンダーボルトショットが、ジェネシスタを襲う。

周囲に撒き散らされて雷撃の余波と土煙によって、決闘舞台は隠されてしまったが、それを見てた観客達は確信していた。

あれ程の威力の攻撃を受けて、プチゴーレムがタダで済む筈が無いと。


それでも、ジェネシスタの無事を信じる者は少なからずいた。

いや、そう信じたかった。四天王の内3人を倒した名機ジェネシスタが、こんな所で終わってはいけない。そう信じて、サイのライバル達は静かに決闘舞台の様子を見守った。


「さて、かつての私は生きてるかな?」


ジェネはそう言いながら、リエッジを動かして土煙をかき分け、ジェネシスタの元へとたどり着く。

そして、土煙の濃度も次第に薄まっていき、ついにその中からジェネシスタが姿を現す。


「……!!」


サイは薄々理解していた。対魔法に特化した結界魔法を展開したとしても、それを上回るジェネの魔法をぶつけられてはジェネシスタはタダでは済まないと。

それは、中破された状態のジェネシスタを見た事で確信へと変わった。


「ジェネシスタ……!!」


愛機の名を叫ぶサイ。だがそれは、以前のように返事を返してはくれない。もうその中に人の魂は入っていないのだから。

右腕を失い、手足に備えられた増加装甲も剥がれ落ちている。だが頭部だけは無事だった。


ジェネがやった、拳に結界を纏わせるやり方を真似し、範囲を頭部に限定して、その代わりに強度の高い結界を頭部に纏わせたのだ。

だがこのままでは弱体化したジェネシスタは容易く倒されてしまう。それを危惧したサイは、ついに奥の手を使う事を決意する。


「トドメだ……さよなら、私よ……。」


ジェネはそう言って、右手の平から光刃を展開し、それをゆっくりと振り上げる。

ジェネシスタの頭部が、リエッジによって切り落とされる……かに思われた次の瞬間……。


「!!」


リエッジの右腕は攻撃を受けて切り落とされた。何事かと戸惑うジェネ。

今のサイに残された攻撃手段は光刃のみ。だがそれによって切り落とされる程リエッジは柔では無い。そう考えたジェネは、サイの姿を見て直ぐに1つの結論にたどり着いた。


「何度も……使おうとして、失敗してきたのに……はぁ……土壇場で成功するなんて……ッ!!」


「サイ……それは……!!」


客席のメメントは、全身から赤いオーラを放つサイの姿を見て、かつて父に言われていた事を思い出す。

メメントが以前決闘で使った奥の手、魔力解放は、彼女の父から教わった魔法だが、この魔法を使う上で絶対に守らねばならない掟がある。


魔力解放と言っても、厳密には全ての魔力を解放する訳では無い。

全ての魔力を解放してしまうと、その反動で身体がとてつもないダメージを受けてしまうので、解放する魔力は最大でも7割までにしておくように、とメメントは父に教わった。

人は、どれだけ魔法の腕が立つ人物でも、日常的に使える魔力の量は限られており、その限界を超えると身体に負荷が掛かるので、それを身体が自動的に抑えているのだ。


それを身体に負荷が掛からないギリギリのレベルまで解放するのが魔力解放という魔法なのだ。

魔力全開放した時に身体が受けるダメージは、1ヶ月は立つのもままならない状態になる程の物なので、魔力解放を使う冒険者達もそこは注意しながらその魔法を使っている。


サイがジェネに勝つ為に使った奥の手、それが魔力全開放であった。

サイの勝利への渇望が、この1ヶ月間なし得なかった魔力全開放を発動させ、彼はボロボロのジェネシスタを立ち上がらせ、勝ちを取りに行こうとする。


「サイ……魔力全解放をしたのか……。」


サイの姿を見てそう呟くメメント。

一方サイは、目の前に立ち塞がる強敵を倒す為に、操縦桿を固く握りしめる。


「行くぞ……ジェネ!!」


「君は……。」


ジェネシスタはリエッジの右腕を切り落とした、いつもと違う紫色に輝く光刃を構えてリエッジに襲いかかる。


「そうまでして勝ちたいのか……君は!!」


ジェネはいつもはしないような険しい表情をサイに向けながら、ジェネシスタの光刃を結界で受け止めながら、その隙に魔法を発動する。

右手の平から、小さなファイヤーショット、アイスショット、ストーンショット、サンダーショット、ウインドショットを宙に浮かび上がらせ、それを1つの魔法に集約する。


「はぁーッ!!」


「結界が……!!」


だが、リエッジが魔法の予備動作に入ってる隙に、結界はジェネシスタの光刃によって切り裂かれる。

このままでは危ない、そう感じたジェネは、即座にリエッジに魔法を使わせる。


「アルティメットショット!!」


5つの属性の魔弾が1つになり、金色に輝く魔弾をジェネシスタ目掛けて放つリエッジ。

それに対してサイは、ジェネシスタに結界を展開させる。この結界もいつもと違う赤色の結界で、先程のサンダーボルトショットよりも高威力の筈のアルティメットショットをなんとか受け止めている。


「なんでここで魔力解放を使う!?しかもその身体から昇る赤い光……全開放じゃないか!?決勝に勝ち上がったとしても身体がボロボロになってろくに戦えなくなるぞ!!それに、君の事を心配する人だっている!!それなのに……!!」


「でも……それでも!!僕は君に勝って!!君を超えたい!!僕は決闘で負けて……雑魚だってバカにされて……それを助けてくれたのは……ジェネシスタだろ!!でも……いつまでも君に頼りっぱなしって訳にもいかないし……僕は1人でもやっていけるって証明したかった!!君が安心できるように!!僕は強くなろうとしたんだ!!」


「……サイ……君って奴は……!!」


サイの思いを受け止め、ジェネは覚悟を決める。

そんな事しなくても、私は君に失望したりはしない、君を見捨てたりはしない……そして皆も君を見捨てない。


そう伝える為に、その思いをゴーレムに乗せて、彼女はサイと戦う覚悟を決める。

サイ対ジェネ、2人の戦いの結末は……。


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