第54話「サイと魔導王」

昼休憩が終わり、決闘場に第2トーナメント開始の合図が告げられる。

その時には既に、決闘舞台前にはサイとジェネは立っていた。

サイとジェネの友人やライバル、そしてギルド職員の面々はこの大勝負を目を凝らして観戦する事を決意している。


南側に立つサイはフルアーマージェネシスタを、北側に立つジェネはリエッジを決闘舞台に置き、ゴーレムを操作する為の魔法操縦桿を出現させ、それを握りしめる。

2人は戦いの前に問答を一切しない。それは今するべき事では無いと分かっているからだ。


サイが深呼吸をして、精神統一をしている一方、ジェネはこの1ヶ月間のサイの行動を思い出していた。



「東の山に行く?」


「うん。人気が無い所で特訓がしたいんだ。」



サイは時々、街から見て東の方角にある東の山に特訓をしに行っていた。

自分には隠したい奥の手があるんだろう。ジェネはそう考えていた。

一体それはどんな奥の手なのか……それはジェネにも分からなかった。

だが、油断すればその奥の手にやられてしまうかもしれない……そう考えたジェネは、例え相手がサイだろうと、全力で挑む事を決意する。


「四天王を倒した者同士の戦いか……もうサイは雑魚じゃなくなった。俺に勝ったからには、無様な戦いは見せてくれるなよ?」


「相棒同士の対決ですわね……。」


「サイ君頑張れ……!(もしも僕がサイ君と戦う事になったらどうしよう……友達の好で手加減してしまうかもしれない!いやそれは決闘者としてどうかと……うーん……)」


サイに負けたカリバー、ジェネに負けたルージュ、サイの友人アレンは、四天王として最後までこの武闘大会と向き合う決意をしている。

彼らや、その他多くの人達に見守られながら、ついに第2トーナメント初戦、サイ対ジェネが始まる。


「第2トーナメント1回戦目……開始!」


「行くぞ!!」


「来い!!」


サイはいきなりジェネシスタに2本の光刃を展開させ、相手目掛けてジェネシスタを突撃させる。

それに対してジェネは、右手を青く光らせて身構える。


ジェネシスタとリエッジの距離は段々と縮まっていき、そしてジェネシスタの光刃が相手に届く距離まで来た時、ジェネシスタは左手の光刃を勢いよく振り下ろす。


「喰らえ!!」


「なんのっ!!」


だが、それを青く光る右手で鷲掴みにするリエッジ。

負けじと右手の光刃を横に薙ぎ払ったが、そちらもジェネの強化された左手で受け止められる。


「マジックコーティングは無いってさっき言ってたはず……そうか!」


サイの光刃を受け止めるジェネを見て、まさかと思った客席のエルスト。

その時、リエッジはジェネシスタの光刃を握った手に力を込め、そのまま2本の光刃を握り潰して、相手を蹴り飛ばす。


「結界魔法を変形させて両手に纏わせたのか!」


「見破るのが早いね!」


自分の技を見破ったサイを褒めるジェネ。だがサイにそれを気にする余裕は無く、吹き飛ばされるジェネシスタを飛行魔法、フライトアップで空中で姿勢制御を取らせてなんとか決闘舞台にジェネシスタを留まらせる。


その時、ジェネシスタの胸部装甲にヒビが入り、そのまま壊れて胸部装甲が剥がれ落ちる。

これはディアクティブアーマーと呼ばれる物で、攻撃の衝撃を吸収し、機体へのダメージを減少させる装備なのだ。


(一瞬リエッジの足の裏が見えたけど、あのゴーレムの足裏には高硬度パイルが付いていた。あれで蹴撃に強力な衝撃を上乗せしたんだ!ハイゴーレムのキックの威力+パイルの衝撃……ディアクティブアーマーが即座に使い物にならなくなる訳だ……。)


「考え事かい!?」


「ッ……来る!」


サイが相手の攻撃力に驚いている最中にもジェネは攻撃を仕掛けようとしてくる。

リエッジはスラスターを吹かしてジェネシスタに急接近し、光刃柄を抜いて光刃を展開し、それを勢いよく振り下ろす。


「魔弾砲展開!!ダブルファイヤーショット!!」


相手の攻撃に対してサイは、背部の魔弾砲を展開、脇の間から砲身を突き出し、そこから2発のファイヤーショットを発射する。


「無駄だよ!」


2発のファイヤーショットを食らったが、それでも動きを止めず、光刃を振り下ろすリエッジ。

リエッジの堅牢な装甲にはハイゴーレムの攻撃では傷が付けられないと理解したサイは、ジェネシスタに結界を張らせて光刃を受け止める。


「プチゴーレムでハイゴーレムを倒す。それは頑張ればできない事も無い。けどハイゴーレムの使い手が魔導王となると話は別だ!」


そう言って光刃を解除し、至近距離で魔法を発動するリエッジ。

リエッジが使った魔法は、5つのファイヤーショットを同時に放つ大技、ファイブファイヤーショットで、これを受けたジェネシスタの結界は壊れてしまい、ジェネシスタは後方に吹き飛んでいき、サイは再びフライトアップで空中に留まらせる。


「私がジェネシスタだった頃、私の戦いを見て君はこう思った筈だ……結界魔法なら、ハイゴーレムとプチゴーレムの力の差を埋められる素晴らしい魔法なのだと!」


ジェネはそう言いながらリエッジに魔法の予備動作を取らせる。リエッジが右手を高く掲げると、そこに小さな雷の球が現れる。

最初は小さな雷球だったので、サイは牽制の為の魔法かと思ったが、その雷球は段々と大きくなっていき、終いにはハイゴーレムであるリエッジよりも大きな雷球となった。


「だが!あれは私が使うから強かったのだよ!」


ジェネは声高らかにその真実を伝え、行為力の雷属性魔法をジェネシスタに向けて放つ。


「サンダーボルトショット!!」


「ッ……!!」


ジェネシスタに向けて放たれたサンダーボルトショット。結界では防ぎきれずとも、少しでもダメージを軽減する為に結界を発動し、ジェネシスタを守ろうとするサイ。

サンダーボルトショットは段々とジェネシスタに近づいていき、ついにそれがサイの愛機に直撃する。

その瞬間、着弾時の衝撃で立ち上る土煙と電撃の余波が決闘舞台を包んだ……。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る