第52話「貫く刃」

「勝者……トライア・アグリッテ!」


第1トーナメント、最後のDブロックを決勝戦まで勝ち残ったのは、ロッソ隊のゴーレム使いのトライアだった。


「流石トライア!決勝戦まで勝ち残るなんて!」


「トライアさんはいつもゴーレム決闘で良い結果を残してますからね。」


決闘舞台前に立つトライアの姿を客席から見て、彼女の強さを評価するアンジュとヘレス。


「次の相手は四天王のアレンさんですか……トライアに勝てるでしょうか?」


「それは……勝利の女神のみぞ知る、ですわ……。」


同じく客席に座っているミリーは、トライアの次の相手であるアレンの事を考えており、それに対して、勝負の結末はここにいる者には分からないと返すルージュ。



(……いよいよ僕の番か……緊張してきた〜!相手はトライアさんだってアナウンスで言ってたな。トライアさんかなり強いんだよなぁ〜……いや、弱気になるな僕!このゴーレム武闘大会で良い結果を残して、父さんと母さんを喜ばせるんだろ!)


控え室のアレンは、愛機の装備を調整しながら考え事をしていた。不安で胸がいっぱいになりかけていたが、両親を喜ばせるという目的を思い出して、自分を鼓舞する。

そしてトライアの戦いから20分が経過したので、彼は戦いの場へと強ばる足を動かす。

シルバ・デュークに改修を施したハイゴーレム、シルバ・ロードをその手に持って。


「それでは、これよりDブロック決勝戦、トライア・アグリッテ対アレン・ダレアスを開始いたします。」


Dブロック決勝戦の開始を告げるアナウンスを聞いたトライアとアレンは、それぞれの愛機を決闘舞台に置く。

トライアのハイゴーレムは、ヘルプリムに増加装甲を取り付けた強化型、アルクェムだ。


「よろしくねーアレン君!」


「こ、こちらこそよろしくお願いします……。(失礼なのは承知だけど、こういうタイプの人は苦手なんだよな……なんか怖いし。)」


トライアに気さくな挨拶をされたアレンは、それにビクつきながらも、自分からもよろしくと返す。

やはり日陰者の自分とトライアのような人は相容れないのか……そう考えつつも、気持ちを切り替え魔法操縦桿を握りしめるアレン。

トライアも魔法操縦桿を握りしめ、これでお互い勝負の準備ができた。


「Dブロック決勝戦……開始!」


そして会場に響き渡る決勝戦開始の合図によって始まるDブロック決勝戦。最初に攻勢に出たのはトライアの方だった。


「行くよ〜!!」


彼女は、アルクェムの増加装甲に取り付けられた魔弾砲から、魔力を元にしたエネルギー弾を無数に射出し、アレンを強襲する。


「ッ……!」


それに対してアレンは、シルバ・ロードの両腕に装備されたレーザー射出武装、レーザーカノンからレーザー魔弾を連射し、それを相手の魔弾にぶつけて相殺する。

ぶつかり合うレーザー魔弾と魔弾、これによって、土で形成された決闘舞台から土煙が立ち上り、アレンは相手を見失ってしまう。

その隙を付いて、トライアはアルクェムに腰のスピアーを抜刀させて突撃させる。


「スキあり!!」


「しまっ……!!」


突如煙幕を切り裂いて目の前に現れるアルクェムを前にして、焦るアレン。

彼は咄嗟にシルバの背部の二門の魔砲を展開し、段々と近づいてくるアルクェムに向けて魔砲を発射する。


「魔砲……!!」


「遅いよ!!」


だが、その攻撃は簡単に見破られ、アルクェムは脚部のバーニアを吹かして高く跳び上がり、シルバの魔砲を回避する。

そのまま落下のスピードを活かしてシルバまで近づき、スピアーでシルバの頭部を刺し貫こうとするアルクェム。


「勝たせてもらうよ!!」


「させない……スティングレイピア!!」


だがアレンも負けじと、魔法スティングレイピアを発動。シルバの手元に緑色に輝く光のレイピアが現れ、それを迫り来る相手のスピアーにぶつける事で、スピアーの軌道をズラして頭部を外させる。

だが、シルバの頭部を外したアルクェムのスピアーは、シルバの左肩部に展開されていた魔砲に直撃し、左側の魔砲の砲身がスピアーによって切り落とされてしまった。


だが、肉を切らせて骨を断つと言わんばかりに、スティングレイピアを構え直させて至近距離のアルクェムの頭部を破壊しようとするアレン。


「今度は僕の番……」


「させないよ〜?」


「なっ……!!」


だがトライアはそれを許さず、アルクェムは右足でシルバを勢いよく地面に叩きつける。

シルバはアルクェムに地面に押し倒され、不利な状況になってしまった。


「さらにダメ押し!!」


さらにアルクェムは、脚部に追加されたクローでシルバを拘束し、シルバを逃げられない状況にした。

後はトドメを刺すだけだ。そう確信したトライアは、アルクェムにレイピアを構えさせてシルバの頭部を串刺しにしようとする。


「トドメと行かせてもらうよ!!」


「させてたまるか!!」


だが、アレンはここで逆転の一手を刺す為に反撃に打って出る。

両腕を切り離して、宙に浮かせるシルバ。さらに両腕のレーザーカノンからレーザーブレードを展開し、アルクェムの頭部を切り落とそうとする。


「喰らえ……!!」


刃を展開したシルバの両腕がアルクェムを襲う……かに思われたが……。


「無駄だよ。」


「なっ……!!」


トライアはそれを予測しており、中に浮くシルバの両腕は、アルクェムのスピアーによって両方とも真っ二つに切り裂かれてしまった。


「こんどこそおしまいね……。」


そう言って再びアルクェムのスピアーをシルバの頭部に向けさせるトライア。だが……。


「誰が……。」


「え?」


「誰がこれで攻撃はおしまいって言った……?」


たった一瞬、トライアが「これで相手に心置き無くトドメを刺せる」そう確信したその一瞬が、彼女の命取りだった。

先程壊したハズのシルバの両腕。だがそれはそこにあり続けた。いや、先程までのシルバの両腕よりも明らかに小さい。


そう、シルバの両腕の中には第2の武器が仕込まれていたのだ。王国サーラルから見て東南の方角にある王国。

この国の特産品に、人形の中から小さな人形が現れ、その中からさらに小さな人形が出てくるという物がある。

その人形のように、アレンはシルバの両腕の中に第2の武装を仕込んでいたのだ。


「喰らえっ!!」


「な……っ!?」


シルバの隠し腕にはアサルトナイフが取り付けられており、それが標的目掛けて腕部から勢いよく射出される。

それはトライアからすれば正に予想外の攻撃。対処のしようもなく、アルクェムの頭部に、2本のアサルトナイフが突き刺さる。


「勝者……アレン・ダレアス!Dブロックを制したのは、アレン・ダレアスです!」


なんとかDブロックを制したアレン。これにより、第1トーナメントから4人の勝者が全て出揃った。

サイ、ジェネ、メメント、アレン、4人の名誉を賭けた戦いが、ついに始まる……。


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