ぬいぐるみ

あそうぎ零(阿僧祇 零)

ぬいぐるみ

 僕は今、喜びの絶頂にある。

 何しろ、長年恋がれてきたものと、文字どおり一つになれたのだ。


 容子ようこは、高校の同級生だった。

 女性としては背が高くてスタイルがよく、美人かつ人を引き付ける可愛さと愛嬌があった。


 多くの男子生徒が彼女に憧れたが、僕も例外ではなかった。

 だが、その頃の僕は、いや、今でもさほど変わらないが、女性に対してひどく臆病だった。だから、彼女に面と向かって交際を申し込むことなど考えられなかった。

 一度だけ、彼女への思いを長文の手紙にして、彼女の下駄箱の中に入れたことがあった。しかし、何の反応もなかった。


 それを機に、僕の心に歪んだ欲望が暗い影を落とした。

 特に目的もないのに、彼女を密かに追跡し、観察し、行動把握するようになった。それは、高校、大学を卒業しても変わらなかった。


 ある日偶然、14世紀のアメリカ大陸にあった王国で行われていたという奇習について知った。それは僕にとって、神の、いや、悪魔の啓示となった。

 その奇習とは、生贄いけにえ生皮なまかわを剥ぎ、司祭がそれを着て踊る神事しんじだ。


 人通りのない淋しく暗い道で、会社帰りの容子を襲って気絶させ、廃屋に運び込んだのは、今から4時間くらい前のことだ。


 苦しませないようすぐに扼殺やくさつし、衣服をすべて剥ぎ取った。

 美しい肢体の鑑賞もそこそこに、あらかじめ用意してあった牛刀ぎゅうとうやナイフで、背中や四肢の後ろ側の皮膚を切り開き、手で皮を剝いだ。

 

 形が複雑な四肢の先はあきらめて、切断した。

 顔など皮膚の薄い部分は上手くいかなかったが、贅沢ぜいたくは言っていられない。苦心の末、容子の外皮がいひが手に入った。

 僕は全裸になって、それをまとった。まるでを着るように。


 容子と合体した僕は、喜びのあまり、下の穴から突き出した僕自身から、愛の証しをほとばしらせた。

 しばらく余韻を味わってから、携帯電話で警察に連絡した。

 遠くから、パトカーのサイレンが聞こえてくる。


《完》




 


 

 


 


 

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ぬいぐるみ あそうぎ零(阿僧祇 零) @asougi_0

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