学年一の人気者と付き合った私、裏切られクラスでイジメを受けるも、ぬいぐるみの不思議な力を借りて復讐する。土下座で謝られてももう遅い
猪木洋平@【コミカライズ連載中】
第1話 幸せだった頃
中学生の少女、チサ。
彼女は、ある理由によりクラスでイジメを受けていた。
「ギャハハハハ!」
「あっはっは」
「うわ~……」
「ぷっ。くすくす……」
放課後の教室に響く嘲笑の声。
今日も今日とて、チサはクラスメイトから酷い仕打ちを受けていた。
「おい、こっち来いよ」
「…………」
ニヤニヤと笑う少年たちに囲まれるチサ。
だが、彼女の瞳に恐怖はない。
あるのは、ただただ深い悲しみだけ。
(どうして……こんなことになっちゃったんだろう)
思い返すのは、数週間前の出来事だ。
――ある日、チサが学校に行くと、黒板にこんな文字が書かれていた。
『チサちゃんへ。今日の放課後、体育館裏に来てください』
最初はイタズラかと思った。
しかし、クラスのみんなも目にする黒板に書かれた以上は、無視することもできない。
その日の放課後、言われた通り体育館裏に行ってみると、そこには三人の男子生徒がいた。
「待ってたよ、チサちゃん」
「俺たち、ずっと君のことが好きだったんだ」
「でも、中々勇気が出なくてね」
どうやら、彼らはチサのことを以前から好きだったらしい。
そして、その思いを手紙で伝えようとしたものの、恥ずかしくなり直接言えなかったとのこと。
「そ、そうなんだ……」
恥ずかしそうに告白をする少年たちに、チサも思わず顔を赤くする。
今まで、異性に好かれた経験などなかった彼女にとって、彼らの気持ちは嬉しかった。
だから、チサはつい言ってしまったのだ。
「ありがとう、嬉しいよ」
その言葉を聞き、少年の一人が嬉しそうに笑う。
そして、チサに対して一歩近づいてきた。
「それじゃあ、俺たちの気持ちに応えてくれるんだね?」
「……え?」
チサは思わず聞き返す。
彼の言っていることがよく理解できない。
「だって、今嬉しいって言ってくれたじゃないか」
「いや、それはそういう意味じゃなくて……」
「照れなくてもいいんだよ、チサちゃん。さあ、一緒に帰ろうか」
そう言って、少年たちがチサの腕を掴む。
「い、嫌! 離して!」
必死に抵抗するチサだったが、所詮は中学生女子の力。
学年でも大人しい方であったチサの腕力など、たかが知れている。
彼女はすぐに抑え込まれてしまう。
「ほら、暴れないの」
「そうそう、大人しくしてればすぐ終わるからさ」
そのまま、無理やり連れて行かれそうになるチサ。
その時だった。
「お、いたいた」
そんな声と共に現れたのは、一人の男子生徒。
彼は、この学校の有名人であり、同時にチサと同じクラスメイトでもある人物だ。
名前は、トオル。
容姿端麗な上に成績優秀、運動神経抜群と非の打ち所がない完璧超人。
その上、性格まで良いのだから文句の付けようがない。
まさに、絵に描いたような優等生である。
「なんだお前? 何か用かよ?」
突然現れたトオルに対し、少年が不機嫌そうに言う。
それに対し、トオルは小さくため息を吐いた後、言った。
「お前らこそ何やってんだ? まさかとは思うけど、その子を無理矢理連れて行こうとしてんじゃないだろうな?」
その言葉に、少年たちが声を荒げる。
「なんだよお前、邪魔する気か!?」
「別にそんなつもりはねーよ。ただ、俺は同じクラスメイトとして、友達としてお前たちを止めに来ただけだ」
そう答えるトオルの瞳には、一切の迷いがなかった。
「ふざけんな!」
その言葉と同時に、少年の拳が振り下ろされる。
しかし、次の瞬間には、その手は掴まれていた。
「なっ!?」
驚く少年を無視し、トオルが言う。
「あんまり調子に乗るなよ。これ以上やるって言うなら、俺も手加減しないからな」
普段の優しい雰囲気からは想像もできないほど冷たい声だった。
まるで、ゴミを見るかのような目。
その視線に射抜かれた少年たちは、思わず怯んでしまう。
「くそっ! 覚えてろよ!」
捨て台詞を残し、逃げ出す少年たち。
それを見送った後、トオルはチサの方を向いた。
「大丈夫だったか?」
「う、うん……ありがとう」
「どういたしまして。それにしても、あいつら酷いことするな」
呆れたように呟くトオル。
そんな彼を見て、チサは思った。
(やっぱり、この人は凄いなぁ)
強くて優しくて、頼りになる男の子。
こんな人になりたいと、素直にそう思った。
それからというもの、チサはトオルのことを目で追うようになった。
学校では常にトップの成績を維持している彼だが、決してそれを鼻にかけることはない。
むしろ、困っている人がいたら率先して助けようとするほどだ。
「あ、あの……教科書忘れちゃったから、見せてくれませんか……?」
ある時、チサが遠慮がちに言うと、トオルはすぐに自分の机を寄せてくれた。
「いいよ、見せてあげる」
そう言って、優しく微笑んでくれる。
「えっと、ここの公式ってどうやって解くんだっけ?」
「ああ、これはね……」
丁寧に教えてくれる彼に、チサはますます惹かれていった。
そんなある日の夜、チサは自室でぬいぐるみに顔を埋めながら悶えていた。
(ああああ……! どうしよう、好きになっちゃったかも……)
実は、最近になってようやく気付いたのだが、どうやら自分はトオルのことが好きらしい。
それも、ただの憧れではなく恋愛感情としての好きだ。
(でも、どうすればいいんだろう……?)
相手はクラスで人気者の男子だ。
しかも、彼自身もモテるタイプなので、既に彼女がいる可能性すらある。
そんな相手に告白しても、フラれることは目に見えているだろう。
それに、もし仮に付き合えたとしても、周りから祝福されることは決してない。
下手をすれば、スクールカースト上位の女子たちからイジメの対象になってしまうかもしれない。
(そんなの嫌だよぉ……。ねぇ、ティンクル? どうすればいいと思う?)
チサはぬいぐるみにそう問いかけるが、もちろん答えは返ってこない。
結局、何もできずに悶々とした日々を過ごすことになるのだった。
――転機が訪れたのは突然のことだった。
いつものように学校に行こうとすると、玄関のところで呼び止められたのだ。
「おはよう、チサちゃん」
そこにいたのは、トオルだった。
「え? あ、おはようございます」
突然のことに戸惑いながらも挨拶を返すと、彼は微笑みながら言った。
「ちょっといいかな?」
そして、連れてこられたのは人気のない場所だった。
「え? え?」
状況が理解できず混乱していると、彼はチサの手をギュッと握ってきた。
「ひゃっ!?」
驚きのあまり変な声が出てしまうチサだったが、そんなことはお構いなしといった様子で彼は言った。
「いきなりこんなことしてごめん。だけど、どうしても我慢できなくてさ」
そこで一度言葉を切ると、真剣な表情でこちらを見つめてきた。
チサは思わず、彼の端正な顔立ちに呆けてしまう。
「俺、君のことが好きだ」
一瞬何を言われたのか理解できなかった。
少しして理解した瞬間、顔が真っ赤になるのを感じた。
「……ほ、本当に?」
震える声で尋ねると、彼は大きく頷く。
そして、もう一度言った。
「俺は、君のことが好きなんだ」
その瞬間、チサの中で何かが弾け飛んだ気がした。
気が付けば、彼の胸に飛び込んでいた。
「わわっ!?」
驚いた声を上げるトオルだったが、すぐに抱きしめてくれた。
その温もりを感じながら、チサは思った。
ああ、幸せだなぁ……と。
二人は恋人同士になった。
クラスメイトたちに報告したところ、みんな祝福してくれた。
中には、悔しそうな顔をする者もいたが、それでも反対する者はいないようだった。
こうして、チサの幸せな生活が始まった。
このときはまだ、幸せだったのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます