誕生日プレゼント

ねこ沢ふたよ

第1話 女がくれた物

「ヨシ君これ! 誕生日プレゼント」


 そうやって、典子のりこがくれた物は、手のひらサイズの犬のぬいぐるみだった。


 マジで要らない。


 大体、四十過ぎの女が、三十歳の男の誕生日に、ぬいぐるみ渡すってどうよ? 今時、高校生でもぬいぐるみなんかプレゼントに選ばないだろう。


 まあ、普段から色々おごってもらっているし、そもそも恋人は典子だけではない。本命もいるし、これから会いに行くし。


「え、あ……有難う」

俺は、戸惑いながらも、素直にぬいぐるみを受け取る。今度クリスマスにランゲ&ゾーネでも買わせるぞ……って、流石にそれは無理だろうけれど。


 早々に典子とは別れて、次の相手のところへ向かう途中、駅のゴミ箱に、もらったばかりのぬいぐるみをダンクシュート! 清々した。


 本命の彼女、綾子あやこと楽しく食事してマンションに帰る。残念ながら、明日は朝から仕事があるから、綾子とゆっくり過ごすのは、また今度。


 ドアを開けて部屋の中に入る。照明をつければ、廊下に転がっているのは


 犬のぬいぐるみ


 え? なんで? あの女、いつ俺の家調べたの? マジ? 脳裏に典子の顔がよぎる。他の女と鉢合わせしたら面倒だから、家には一切典子を入れていない。

 典子が俺の家を調べ上げて、先回りしてぬいぐるみを置いて帰ったとしか思えない。

 確かめようと、典子の電話に掛けるが、典子は出ない。『お客様の都合により現在通話の出来ない状況にあるか、電源が入っていないため……』テンプレだけが虚しくスマホから聞こえる。


「くそっ!」

腹が立つ。


……落ち着け、落ち着け。


近くのファミレスでコーヒーでも飲んで落ち着こうと思い立って、ファミレスへ。ファミレスでコーヒーを一杯だけ飲んで、冷静になって。帰宅しようとレジに向かえば、


「お客様、席にお忘れ物です」

と店員に声をかけられる。


店員の手には、あの犬のぬいぐるみ。


「ち、違います。俺のじゃないです」

しらばっくれて、俺は慌てて店の外へ出る。


どこかで典子が見ている? 冷や汗をかきながら、俺は歩くが、すれ違う人が全員典子の変装に見えて、恐ろしくなる。


ひと気のない場所を求めて路地に入り込めば、路地の真ん中に、ポツンと犬のぬいぐるみ。


「う、うわぁぁぁ!!!」


俺は、震えあがって絶叫して大通りへ飛び出した。覚えているのは、けたたましいクラクションの音と、眩しいヘッドライトだけ。


ーーーーー


 やっと厄介払いができた。

 友達と行った心霊スポット。親に置き去りにされた小さな子が死んだという病室から、面白半分で拾ってきた小さなぬいぐるみ。

 いい感じのクズ男を見つけて、その男にぬいぐるみを押し付けた。

 何度捨てても戻ってくるのよね。気持ち悪いったら。


 典子は、返品されるのを恐れて切っていたスマホの電源を入れる。どうやら、向こうは諦めたようで、一時間ほど前から、男からの着信は途絶えている。

 ま、事情を知らないなら、そのまま持っていても平気でしょ。ぬいぐるみと仲良くやってよ。


 喫茶店のレジ。お金を払えば、店員が、


「お客様、席にお忘れ物です」

と、声をかけてくる。



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