愛しい妹へ心を込めて

御影イズミ

大好きだったぬいぐるみを作ろう

 異世界ガルムレイ、機械の国エオルシャスにそびえ立つ観測者の塔。

 その頂上にて、神――もとい、管理者のベルトア・ウル・アビスリンクはちくちくと縫い物をしていた。


 神という立ち位置にあっても、人間と同じで何もなければ暇なもの。

 世界の管理を行うといえば聞こえは壮大なものだが、大体は地上に生きる人々がなんとかしてくれるものだ。


「んー……腕の部分がちょっとなぁ……」


 縫い終わった部分の糸を切り、もう一度縫い直すベルトア。

 ぬいぐるみを作るというのもなかなか難しく、思ったように作れないようだ。


 そんな折に塔へやってきたのは、コリオス国公爵オスカー・マンハイム。彼は手土産にコリオス国の名産品であるアップルパイとシードルを持ってきてくれた。

 オスカーの存在に気づくと、ぬいぐるみを縫製する作業の手を止めてテーブルを用意してお土産を置いてもらう。


「悪いな、マーシア。仕事か?」

「ん、いや。オリヴィエちゃんの命日だから、さ」

「ああ、やっぱりか。でも仕事はいいのかよ?」

「今日は休暇にしてもらってるよ。ヴォルフさんに渋られたけど、エミーリアさんにこんこんと叱られてね」

「ははは、ヴォルフらしいな」


 グラスを用意し、シードルを注ぐベルトア。仕事中だろ、とオスカーに窘められても、今日は特別な日だからと笑う。


 今日は彼らの妹、オリヴィエ・ロア・アビスリンクの命日。

 病を患い、長く生きることの出来なかった妹へのせめてものプレゼントとして、ベルトアはぬいぐるみを縫い続けていた。

 人形を瞬時に作る力《人形師パペッター》の力を使わずにどこまで作ることが出来るか。それに挑戦していた。


「でもさ、オリーの好きな猫が上手く作れなくて」

「どこが出来ないん?」

「腕んとこ。マーシア、頼める?」

「あー、腕か。任せて」


 腕をまくり、オスカーもまたぬいぐるみの縫製作業を手伝い始めた。

 少し大雑把に作るベルトアと違い、オスカーの縫製は緻密で出来栄えも全く違う。本当に同じものを作ったのかと思えるほどの差が出来ていた。


「なんでマーシアと俺でこんなにも差があるんだ……」

「まあでも、オリヴィエちゃんも昔は兄貴みたいな感じだったけどね」

「オリーはオリーで、すげえぬいぐるみだったよなぁ……」

「あー、そういえば昔……」


 ちくちくと針を通しながら、昔話に花を咲かせるベルトアとオスカー。

 オリヴィエが生きていた頃はああだった、こうだったといろいろな話で盛り上がりつつ、手元では少しずつ猫のぬいぐるみが出来上がっていた。


 オリヴィエが好きだった猫の形を作ったぬいぐるみ。

 それが完成することで、彼女がいたという証を残すことが出来るのだとベルトアは語る……。

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