幸渡しのぬいぐるみ
碧空
マオちゃんとお母さん
「はじめまして!マオはね、マオって言うの!今日から、きみの名前はもふ!もふだよ!!」
ボクの名前はもふ。
ご主人様がつけてくれた大事な名前。
白いふわふわに全身が覆われたクマのぬいぐるみで、今日ご主人様のお家にやって来た。
ご主人様が広いベッドの上にボクを置いた後、『もふもふしてそうだから、君の名前はもふなんだって』ってご主人様のお母様は少しいまにも泣き出しそうな顔で笑っていた。
なんでそんな顔で笑うんだろう。
ボクは名前をつけてもらったことが嬉しかったのに。別に、どんな理由でも嬉しいのに。
ボクにはヒトの考えてることがよくわからないけど、なんだかおかしな様子だなって言うのはなんとなく分かった。
「おかあさんね、お母さんじゃないの。」
ある夜、パジャマに着替えてベッドに潜り込みながらご主人様はボクに向かって言った。
ボクは無言で座ってることしかできなかったけど、ご主人様はお話を続ける。
「おかあさんね、お父さんが連れてきてくれたおかあさんなの。だから、お母さんじゃないの。」
「ずっとね、どうすればいいかわかんなかったの。でもね、でもね、マオがね、もふのこと見てたらね、おかあさんがね今日おうちにもふのこと連れてきてくれたの!」
ご主人様はぎゅっとボクの事を抱きしめる
「おかあさんね、お母さんじゃないけど、でもおかあさんだったの!マオのこと見ててくれたの!」
「だからね、だからね、もふがきてくれてすごい嬉しい!ありがとうおかあさん!!って言ったらね、おかあさんぎゅってしてくれたの!」
ご主人様はえへへ、と嬉しそうに笑う
「おかあさんね、ずっと悲しそうな顔してるマオじゃなくて明るい顔が見れるようになりたいのって言ってたの。おかあさんって笑って呼んでくれて嬉しかったって。」
「お母さんはずっとお空で見ててくれてるけど、おかあさんになっていいかなって言うからね、うん!って言ったの!!ちょっとぎゅっとされてるの苦しかったけど温かかったの!」
ボクをパっと離すとご主人様は布団に潜り、ボクを枕元に寝かせる。
「もふはね〜おかあさんが連れてきてくれたけど、もふもおかあさんを連れてきてくれたの!!だからすっごい大好き!!もふ、ずっと一緒だよ!!」
部屋の中は暗かったけどご主人様はにこにこですごく明るく眩しく見えた。
ご主人様、ボクはずっとずっとお店に飾られてるだけで触ってくれる人はいても連れて行ってくれる人はいなかったんだ。
だから、嬉しいのはボクも同じ。ご主人様もそのお母様も、ボクが幸せになった分まで幸せになってほしいなって思うんだ。
おやすみ、ご主人様。また明日。僕の幸せがご主人様たちに送られますように。
幸渡しのぬいぐるみ 碧空 @aon_blue
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