第七話〜魔力コントロール〜
「違う。魔力をもっと指先に集中させろ」
怒声とは言えぬが、情け容赦なく避難する注意が二人だけの空間に響く。
修行初日に、師匠に復讐を誓ってから幾星霜。この時間という概念がない世界では、いつ日を跨いだのか、今は朝なのか夜なのかもわからない為、ここに来て何日経っているのかも把握できてはいない。
修行して魔力が枯渇しては寝て、起きてはまた修行。その繰り返しである。
不満はない。
もとより強くなりたいのは俺の願いでもあるのだから。
外に出て上を見上げれば、自分と変わらない年頃の少年少女が一緒になってはしゃぎ回る姿が映し出されており、目に入る。
スカディラビィアから生者である俺への当てつけだろうか。
馬鹿馬鹿しい。
それを見て羨ましいという感情よりも反吐が出る。
あのような時間の浪費は、影の
あのように遊び回る楽しさなど、元より知り得ない。
知らないことを羨ましいなどとは思わない。当然の話である。
だからこうして、鬼教官である師匠とマンツーマンで修行している方が俺には性に合っている。
「魔力は常に微弱ではあるが全身から放出されている。それでも魔力が枯渇しないのは放出している量よりも吸収している量の方が多いからだ」
現在は魔力操作の修行中。師匠の解説を聞きながら俺は魔力を体の一部へと集中させる訓練をしていた。
「吸収も放出と同じように全身で行っている。つまり、意図的に魔力は一部に集めることができれば空になった場所から新たな魔力を吸収し、より多くの魔力を集めることができる」
「でもよ、それって大丈夫なのか?通常よりも体内に多くの魔力を集めるなんて」
「無論、限界はある。己のキャパシティを超えて魔力を貯め続ければ、肉体は耐えられず四散するであろうよ。だから自身の魔力を正確に近くできるまでは決して一人ではやるなよ」
今は師匠が見ているから、自分の限界を知覚できなくても安全に修練に励むことができていると言うことらしい。
話を聞いている最中にも全身の魔力を指先の一点に集中させるのを忘れない。
しかし、修行は順調とは言えなかった。
他でもない俺自身の習熟度が悪いのが原因だった。
成長していないわけではない。まるっきり知覚できなかった魔力をお粗末ながらも感じ取れるようにはなっている。
ルーン魔術も魔術式が刻まれて日の浅い程度のものであれば、初日な爆発を起こさず扱うことだってできる。
一歩一歩ではあるが、出来ることは増えている。
でも、それじゃダメだろ。
こうしている間にも、俺の体はスカディラビィアの瘴気に当てられ少しずつ犯されている。
猶予はあとどれだけだ?
「…ぃ」
いつになったら守護の魔術を張れるようになる。
俺には魔術の才能なんてないんじゃないか?
この修行も何日も進歩がない。
「聞いているか馬鹿者」
「いつッ!」
ピリッとした痛みが走り、意識が内から外へ向けられる。いつの間にか師匠が隣に座り、耳を引っ張られていた。
「我が話していると言うのに何を無視しておるか」
「いや、その……」
どうやら考え事に没頭していたせいで話を全く聞かずに居たようだ。
呆れた表情を浮かべる師匠には、こちらの内情なんてカケラも理解できないし、する気もないんだろうな…
「すまん…」
ふと、師匠はどう思っているのか気になった。中々成長する兆しの見えない弟子に、嫌気が刺したりはしないのだろうか?
「師匠は…もどかしいはねぇのかよ」
「もどかしい?」
「だって…俺、明らかに見込みねぇだろ。こんだけやっても一向に上達の兆しが見えてこないしさ。それに俺自身が焦ってんだよ。こんな調子で間に合うのかって」
俺の言葉を聞くと、師匠は小さくため息をつく。
「確かに筋がいいとは言えぬな」
びくりと肩が跳ねる。自分で言っておきながら師匠の口から直球で言われるとやはり堪えるものがあった。
しかし師匠はすぐにこちらを睨むような表情で、いつものように不遜な態度で言い放った。
「だが勘違いするな。お前の成長が著しくないのは何もお前のせいだけではない」
「どういうことだよ?」
「我も弟子を持つのは初めてだからな…訓練の最適化に手間取っているところだ。今お前がやっている魔力の放出・吸収・集中は基礎ではあるが、全て同時でコントロールすることは魔道の極致だ。高等魔術を習得するよりはるかに至難の業だぞ」
「…そうかよ」
この辛辣な師匠にも、人を励ます為に嘘を吐くぐらいの優しさが備わっていることに驚いた。
師匠にこんな似合わない嘘まで吐かせてしまったんだ。
何をどう考えても、出来なかったら死ぬ。なら、才能云々を考えてないで、やるべきことに集中するしかないんだ。
俺は霧散してしまった魔力を、再び指先に集め始めた。
「ふむ……色々並行しての訓練はやりすぎだったか……」
師匠は何か呟いていたが、魔力に意識を回していた俺には聞き取ることができなかった。
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