ぬいグルメ

カニカマもどき

第1話

 ぬいグルメというものをご存じでしょうか。


 例えば、はちみつたっぷりのホットケーキの側にクマのぬいぐるみを添えたり。

 クリームソーダの側にサメのぬいぐるみを配置したり。

 スイーツなどとぬいぐるみを組み合わせることで、写真映えがしますし、視覚的に楽しめることで食欲増進にもつながる。

 ぬいぐるみと食の素晴らしき融合。

 それが、ぬいグルメです。


 しかし、いま挙げた例はほんの序の口。

 玄人のぬいグルメは、こんなものではありません。

 例えば、うどんに、ごぼう天のぬいぐるみを浸からせたり。


 あっ、引かないでください。

 ちゃんと清潔なぬいぐるみを使用しているから大丈夫。

 そういうことじゃない? まあ、とりあえず聞いて。

 こんなことをするのには訳があるのです。

 それは……

 よく出汁だしが染みた、熱々のごぼう天のぬいぐるみにモフっとかぶりつくと、じゅわぁっと口の中にスープが溢れ、鰹や昆布の豊かな香りと風味が一気に広がり、感動的な美味さを味わえるのです。

 

 本物のごぼう天のほうが美味いだろうって?

 いや、違うんですよ。なんて説明したらいいのかな。

 ぬいぐるみはですね、ストローと、スープに浸して食べるパンの中間であり進化系でもあるというか。

 スープと綿(麺ではなく)が絶妙に絡み合うのが最高というか。

 ぬいぐるみ自体が食べられないものであることは、弱点でも何でもないのです。

 むしろそれがいい。


 「刺身は、しょうゆを舐めるための口実」とは、かのお笑いコンビ華丸大吉の華丸氏の言葉ですが。

 似たようなもので、ぬいぐるみというのは、汁物の香りや風味を最大限引き出してくれる、媒体の役割を果たすのです。

 ぬいぐるみの生地や綿の詰め方、形状等による、香りや風味の変化も様々。

 デザインや色による、視覚的な楽しみ方も自由自在。


 一度、だまされたと思って試してみてください。

 そして驚き、ハマってください。

 ぬいグルメは奥が深いのです。

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ぬいグルメ カニカマもどき @wasabi014

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