のろいのぬいぐるみ

のろいのぬいぐるみ

　持ち主が不審死を遂げる呪いがあるという曰く付きの物は世の中には意外と溢れているようだ。

　だが、中には呪いの力を持ちながらも人には案外無害な物も存在しているらしく今私を殺そうとしてくるこのぬいぐるみもそうらしい。

　事の発端は動画投稿で稼ぐ私がファンからのプレゼントを所属している会社を通じて貰ったことだ。

　会社でのチェックで怪しい物が仕込まれてないことが分かっていたので、ぬいぐるみ好きの私は有り難く受け取り自宅に持ち帰ったのだが、そのぬいぐるみが深夜に動き出したのだ。

「これどうしよう。お塩でもかければ良いのかしら？」

　普通呪いの人形に襲われればパニックになりそうなものなのだが私は落ち着いていた。

　何故ならこの呪いのぬいぐるみ、鈍いのだ。

　海亀をデフォルメしたデザインのぬいぐるみなのだが、口からはギザギザの歯が飛び出しており、首筋でも噛まれたら確実に私は死ぬだろう。

　だが海亀を模しているデザインのせいでヒレのような足でズリズリと這うようにしか動けず、赤ちゃんのハイハイより遅い速度で追いかけられている内にすっかり恐怖心は消えてしまった。

　とりあえず対応に悩んだ私は近くにあった掃除用のモップでぬいぐるみで抑えて近づかないようにしつつ、常に肌身離さず持っているスマホでマネージャーに連絡を取る。

　事情を説明するとマネージャーは直ぐに知り合いのお寺のご住職を連れて行くから私には避難するように言って通話を切った。

　普通は言われた通りに逃げるべきなのだが、私は動画投稿者の端くれ。

「緊急で動画を回しています！　私は今、呪いのぬいぐるみに襲われているのです！」

　こんな視聴数が伸びそうな状況を逃す訳が無く、スマホで動画を撮り始める。

　自分でもこれは死亡フラグなのでは、思ったがマネージャーとご住職が来るまで現状が変わることはなく、ぬいぐるみはあっさりご住職によって祓われるのだった。