おぱぱとオヨヨとふわふわ

穂高 萌黄

第1話 ネーミングセンス

 幼い子供がいる家庭に無難な贈り物なのか、我が家にはたくさんのぬいぐるみがあった。動物の形に縫われた布に綿を詰めただけの物だが、二歳違いの弟と私は夢中になった。外出できなくなるからという両親の言い分でペット禁止だった我が家では、子供にとってぬいぐるみは家族同然、一つ一つに名前がつけられていた。


 いつでも次に家族が増えたらどんな名前にしよう、そればかりを考えている。参考にするのは友人の家の猫や犬の名前だった。だから私のぬいぐるみはリリーだのパピーだの、それっぽい名前になる。弟は理解不能レベルの直感派で、熊の親子には「おぱぱとオヨヨ」、ゴリラは「ふわふわ」、と言った具合に意味不明な名前がついた。


 そんな弟のことを大人たちは面白がって、可愛がった。いつだって、私は「お姉ちゃんだから」を理由に後回しにされ、我慢と諦めしか選択肢がない。そもそも「おぱぱとオヨヨ」だって、私のぬいぐるみだったのを弟が欲しがり「お姉ちゃんには新しいのを買ってあげるから、これは譲ってあげて。」と言われて渋々渡した物だ。そして、新しいのなんて買ってもらえないまま、親は口約束を忘れていく。


 何が悪いんだろう、なぜ私だけこんな目に遭うんだろう、弟がいない時にこっそりオヨヨを抱っこして考えた。私の何が悪いんだろう、どうしたら同じように扱ってもらえるんだろう、ふわふわに尋ねた。


 その答えは出ないまま、私はおばちゃんになった。おぱぱもオヨヨもいつゴミに出されたのか知らない。一生誰にも頼らずに一人で生きていこうと決めた時、私と寄り添って歩くと言ってくれる人と出会った。彼の息子が満面の笑顔で生まれたばかりの女の子を私に抱かせてくれた時、昔のことなんてどうでもいいと思えた。今の幸せがとても大きく感じられるのは、きっとあの日々があるから。いつかこの子にぬいぐるみをプレゼントしよう。


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おぱぱとオヨヨとふわふわ 穂高 萌黄 @moegihodaka

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