空飛ぶぬいぐるみを追いかけて

アほリ

空飛ぶぬいぐるみを追いかけて

 「ハッピーバースデーディアもい♪ハッピーバースデートゥーユー♪」


 今日は、飼い猫のもいの誕生日。


 元々は保護猫なので、貰われてきた日が誕生日になっていた。


 「もいちゃん、お誕生日をご主人様に豪勢にして貰って幸せ者だなぁワン!!」


 飼い犬にのミニチュアダックスのウインナーは、風船の束に囲まれた部屋の猫つづらの中で寝そべるもいを羨ましいがった。


 「それに・・・」


 ミニチュアダックスのウインナーは、部屋の周りに飾られた風船の束を見詰めて目を爛々と輝かせた。


 「欲しいぃーーー!!風船欲しいぃーーー!!もいばっかりズルいぃーーー!!

 俺にも風船分けてくれワン!!」


 「やだ。君の誕生日まで待つんだね。にゃん。」


 猫つづらにも結ばれた風船の束の紐を、爪ではじいて、黒ハチワレのもいはご主人様から今頂いたちゅ~るをペロペロと舐めてご満喫だった。


 「ちぇっ!」


 ミニチュアダックスのウインナーはふて腐れた。



 ゆらゆら・・・ゆらゆら・・・



 「あっ!!」


 猫のもいは、目の前に風船をいっぱい付けたぬいぐるみが浮いているのを見つけた。


 そのぬいぐるみは、猫のもいが保護猫としてこの家にやってきた時からあった熊のぬいぐるみで、もいの安らぎのパートナーだった。


 「熊ちゃん。熊ちゃん。私の熊ちゃん。風船付けて私を祝ってくれるの?」


 もいは、何度もジャンプして相棒の熊のぬいぐるみを掴まえようとした。


 「ごめん!ごめん!もいちゃん!風船付けすぎちゃったかな?」


 猫のもいの飼い主が、フワフワと部屋の中で浮く位に浮いている風船を取ろうとした時だった。


 「わんわんわーーーん!!風船風船いっぱい風船だーーーっ!!」


 いきなり後ろから、ミニチュアダックスのウインナーが風船をいっぱい付けた熊のぬいぐるみに飛び掛かってきた。


 「あっ!ウインナーちゃん!」


 風船を付けた熊のぬいぐるみは、飼い主が取ろうとした手を離れ何故か開いていた窓の外へ向かってフワフワと飛び出してしまったのだ。


 「うにゃーーーーーーーーっ!!」


 猫のもいは悲鳴を上げた。


 空高く舞い上がって飛んでいく、猫のもいのパートナー。


 「ふーーーーーっ!!」


 猫のもいは毛を逆立てて、風船を付けたぬいぐるみを飛ばしてしまったミニチュアダックスのウインナーに向かって威嚇した。


 「いいじゃんいいじゃん!!あのぬいぐるみのせいで、君構ってくれないじゃん!!

 代わりに俺を・・・」



 ボカッ!!



 猫のもいの猫パンチが、犬のウインナーのこめかみに炸裂した。


 ミニチュアダックス犬のウインナーは、床をバウンドして猫のもいが日頃粗相をする猫砂の入った箱に突っ込んだ。


 「何するよの!もいちゃん!新しいけりぐるみなら買ってあげるから!!」


 飼い主の声も聞こえない位に、猫のもいと犬のウインナーは喧嘩を始めた。


 「私のぬいぐるみ返して!!」「解ったよ解ったよ!!取り返しに行くきゃいいんでしょ!!俺・・・ぬいぐるみに付いてた風船欲しかったんだし!!」


 2匹は窓から外へ飛び出して、何処かへ飛んでいった風船をつけた熊のぬいぐるみを追いかけていった。


 「久しぶりね。外。外では、私良いこと無かったけど・・・あんたはいいね。何時ご主人様と散歩に出かけてるじゃん。」


 「何言ってるの。何で素に戻るの?もい。君の風船・・・じゃなくて、ぬいぐるみを追いかけるから外へ出たんでしょ?!」


 外へ出たとたん、怖じ気づく猫のもいに犬のウインナーが宥めた。


 ・・・無理も無いさ・・・


 ・・・あいつは過酷な野良猫時代を送ってたもんな・・・


 犬のウインナーは、鼻をクンカクンカと空に突き上げ、微かな風船のゴムの臭いやぬいぐるみに染み付いた猫のもいの臭いを嗅いでみた

 「駄目だ。こんな空の上じゃ、風船・・・じゃなくてぬいぐるみの臭いがしない・・・そうだ!!」


 ミニチュアダックスのウインナーは、妙案を思い付いた。


 「なあ、もい。君は身軽だろ?家の屋根に登って、そこらに飛んできてる鳥たちに風船の付いたぬいぐるみを見たか聞いてきてよ?」


 「解ったわ。がってん。」


 猫のもいは、塀をよじ登ってそこらに飛んでいる小鳥たちに風船の付いたぬいぐるみの行方を聞きに行こうとした。



 ガツン!!



 「なんじゃい・・・」


 ・・・ギクッ・・・!!


 猫のもいの血の気がひいた。


 そこには、野良猫時代に目を付けられて散々もいをいじめてきた肥ったどら猫のゴンボスが塀の上で寝そべっていたのだ。


 そのゴンボスの大きな尻にもいはぶつかってしまったのだった。


 「よお。チビ・・・久しぶりじゃのお・・・おめえ人に飼われてんだってな。

 いいご身分じゃの・・・」


 「あ、あの・・・」


 猫のもいは、その茶トラのゴンボスの厳つい顔を見たとたんに声が詰まった。


 「もしかしたら・・・人間との暮らしが嫌になって、また戻ってきたとか?」


 「ち、違いますゴンボス!!それは、かくかくしかじか・・・」


 「そっか。君の愛する熊のぬいぐるみが風船を付けて飛んでったと・・・おし!!猫の手を貸そう!!」


 ゴンボスは、肉球を口へ持っていくとピーーーッと指笛を吹いた。


 すると、ゴンボスの子分の野良猫達が何処からともなくやって来た。


 猫のもいはギクッとした。その野良猫達は野良猫時代のもいをフルボッコにした連中だったからだ。


 「そう怖がるなよ。今は君の味方だ。おーーい!!空で風船を付けたぬいぐるみを見なかったか、そこら辺の鳥に聞くんだ!!いいな!!」

 

 「うにゃーーーーーっ!!」


 野良猫達はそう言うと、何処かへ行ってしまった。


 「大丈夫かなあ?」


 塀の下の犬のウインナーは、ずっと空を見上げた。


 やがて・・・


 「ヒヨドリのビアって奴に聞いたら、東の方へ飛んでったって!」


 「ムクドリのムックンって奴に逢ったら、あっちを曲がったとこの更に向こうに見たって!」


 「スズメのチュンタに聞いたけど、あのビルのはす向かいの更に向こう・・・あれ?」


 「んもぉーーー!!アテにならん奴らだニャー!!」


 ゴンボスは部下の野良猫達にイライラしていると、空から1羽のカラスがやって来た。




 バサッ!バサッ!バサッ!バサッ!



 「やあ。猫さん達。ぬいぐるみが結んである風船の束を探してるんかい?かあ?」


 「うん。そうだが?知ってるのか?その風船。」


 「知ってるも何も、あの風船が鉄塔の上に引っ掛かってたよ。あ、申し遅れた。おいらはカラスのキスカ。宜しく。」


 「おい!このカラスが風船の在りか教えてくれるってさ!!おいチビ!行こうぜ!!」


 ゴンボスとその一味の野良猫達、そして猫のもいとミニチュアダックスのウインナーは、カラスのキスカのもとをついていった。


 「ひゃぁーたけぇーーー!!」


 確かに、カラフルな風船の束の紐に括られた熊のぬいぐるみが、鉄塔の高圧線に引っ掛かっていた。


 「じゃあ!おいらが、あのぬいぐるみを取ってきてやる!!見てろよ。」


 「頑張って!カラスさん!!」


 猫達の声援を受け、カラスのキスカは遥か上空の高圧線に向かって飛び立った。


 その時だった。



 びゅううううーーーー!!



 突然突風が吹いてきた。


「かぁーーー!!しまったーーー!!」


 風船の付いたぬいぐるみが、高圧線を離れて更に向こうへ飛んでったのだ。


 「うにゃーーー惜しい!!」


 猫達はため息をついた。


 ・・・あのカラス、まさか風船割っちゃわないかな・・・?


 ・・・俺、あの風船がどうしても欲しくて追い掛けてたけどな・・・?


 ミニチュアダックスのウインナーは、猫達に付いてきなら心配していた。


 「このっ!!このっ!!このっ!!」


 何度も追い付いても、カラスのキスカが嘴や鉤爪が掴めない風船の紐。


 フワフワと揺れ、その追撃を交わした。


 「頑張れっ!頑張れっ!!」


 猫達は応援した。しかし、犬のウインナーは風船をカラスが割らないか心配だった。


 「このっ!このっ!あっっっ!!」



 ぱぁーーーーーーーん!!



 カラスのキスカの嘴に黄色い風船が当たり、パンクしてしまった。


 「きゃいーーーーーん!!」


 「何よウインナー!」「だってカラスが風船を!!」「風船なんか、部屋に飾ってあったでしょ?全部あげるわよ!!それでいいでしょ?!」


 欲しかった風船をカラスに割られて取り乱すミニチュアダックスのウインナーを、猫のもいは必死に羽交い締めした。


 「取れないっ!!かあっ!」



 ぱぁーーーーーーーん!!



 「また風船割っちゃた!!今度こそっ!!かあっ?!」


 

 ぱぁーーーーーーーん!!




 「きゃいーーーーーん!!きゃいーーーーーん!!きゃいーーーーーん!!」


 「あっ!ウインナー!!」


 カラスのキスカが浮いているぬいぐるみを取ろうと、誤って風船を嘴で突っついて割れる度に、ミニチュアダックスのウインナーは狂乱が増していき、遂に猫のもいの元を振りほどいて駆け出してしまった。


 「待ってよウインナー!!」猫のもいは必死にカラスの元へ駆けていくウインナーを追い、野良猫達もついていった。


 

 ぱぁーーーーーーーん!!



 

 最後の風船が割れた瞬間、熊のぬいぐるみが上空から地上に落下していった。


 「あっ!」「ああーーーーっ!!」


 猫のもいと野良猫達は、落下していく熊のぬいぐるみを受け止めようと駆け寄ってきた。


 「あぶないっ!!もい!!」


 先を行っていたミニチュアダックスのウインナーは、猫のもい達の行く手を阻んだ。


 「この先は高速道路だ!!車に轢かれたいのかっ!!」


 「うにゃぁーーーーーーっ!!」


 その時、猫のもいは悲鳴をあげた。


 高速道路のど真ん中に落下した熊のぬいぐるみは、無惨にトラックに踏み潰されて中身か破けて四散したのだ。


 「私の・・・私の熊ちゃんが・・・」


 「お互いだよ。風船全部割れちゃったんだから。」


 猫のもいと犬のウインナーがとぼとぼと家に帰って部屋に戻ると、猫つづらの側に大きなマグロのぬいぐるみが置いてあった。


 「これは私からの誕生日プレゼントよ。」


 「ご主人様ぁーーーー!!」


 「おめでとう、もいちゃん。」


 犬のウインナーも誕生日の風船に囲まれて嬉しそうだった。



 ~空飛ぶぬいぐるみを追いかけて~


 ~fin~

 

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空飛ぶぬいぐるみを追いかけて アほリ @ahori1970

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