第2回 変形性膝関節症の父親が「人工関節置換術は嫌だ」と言って、別の手術を受けた話
変形性膝関節症になってしまった私の父親の話です。
人工関節にすることなくほぼ全快状態まで持っていけたので、どんな手術を受けたのかや、その経緯などについて説明させていただこうかと思います。
●変形性膝関節症になっていった父親
まず変形性膝関節症というものについて、簡単に説明します。
人体において、関節軟骨は消耗品です。
『骨』は血管や神経が豊富で高い再生能力を持ちますが、骨と骨を接続して関節を形成する『軟骨』は血管や神経に乏しい(だからこそ関節のクッション材として機能できます)ため、再生能力がほとんどありません。
ですので、膝を酷使する仕事をしていると、歳を取るにつれて膝の軟骨が薄くなっていきます。
軟骨が薄くなると膝の上下の骨に刺激が伝わりやすくなり、徐々に痛むようになっていきます。
骨は刺激を受けると骨増殖を起こしますので、進行すると膝の骨の変形を招き、骨棘と言われる独特のトゲを形成します。その頃には相当な痛みになっており、歩行にも支障をきたすようになります。
これが変形性膝関節症です。
私の父親は営業職ですが、現場に出ることも多く膝に負担がかかりやすかったため、徐々に変形性膝関節症が進行していったようです。
●病院へ
本人は医者嫌い(昭和の男性あるあるな話)で、当初は家族の勧めも無視して頑張るつもりでいたようでした。
が、まともに歩けなくなるほどの痛みになってくると、ついにギブアップします。
整形外科を受診しました。
整形外科では最初にレントゲンを撮るわけですが、我慢に我慢を重ねた右膝は、見事に軟骨が減っていたそうです。
本人は最初、保存療法(※)で頑張るつもりだったそうですが、かなり進行した変形性膝関節症ということで、通院しても痛みが改善されることはありませんでした。
ついには、主治医から「人工関節置換術」を勧められます。
※手術せずにリハビリ等で改善を目指す療法です。が、前述のとおり膝の関節軟骨は再生能力がほとんどないため、あまり改善は見込めないと思います。
ハリやマッサージ、ストレッチなどで痛みが薄れることはありますが、痛くなくなるとまた膝を元どおり使い始めるのでまた軟骨が削れ、ステージとしては進行してしまいます。
●勧められる「人工関節置換術」
本人としては、人工関節の勧めにかなりの衝撃を受けたようです。
親戚にも人工関節にしている人はいましたので、本人的に未知のものではなかったようです。しかし、体に金属を入れることや、自分の関節がなくなって人工物に置き換わってしまうことは、非常に抵抗があったそうです。
私はこの段階で初めて、本人から詳しい状況を聞きました。
「あまり人工関節にはしたくない」
と、本人がションボリしていたので、本当に他の療法や手術の適用にならないのかどうか、再度確認をとってみてはどうかと本人に言いました。
いちおう私も医療系の専門学校を出ているので、膝の状況次第では人工関節以外の選択肢もあるということは知識にありました。なので再度主治医に相談することは無意味ではないと思いましたし、それでも回答が変わらなければ、セカンドオピニオンを取って本人が納得もしくは諦めがつくまで話を聞くというのも良いと思ったのです。
●提案された「HTO手術」
ということで、次の診察のときに本人からもう一度相談することになりました。
その次の診察では、たまたま主治医の先生がお休みで、代わりの先生が来ていました。
代わりの先生はこうおっしゃったそうです。
「確かに膝の内側の軟骨はほとんど削れてしまっているけれども、画像を見ると外側の軟骨は生きているから、それを生かす手もある」
そして提案された手術は、
『HTO手術』(高位脛骨骨切り術)
でした。
これは簡単に言うと、骨を切って繋ぎ直し、脚をX脚に変えてしまう手術です。
O脚……膝の内側の軟骨に体重がかかる
X脚……膝の外側の軟骨に体重がかかる
日本人はO脚気味の人が多いので、変形性膝関節症の人は内側の軟骨から削れていきます。
ですが、無理やりX脚にしてしまえば内側の軟骨を使わなくて済むため、痛くなくなるうえに関節も温存できるというカラクリです。
本人は人工関節にしなくてすむと喜んだようで、ぜひ主治医に相談してみようということで、その日の診察は終わったそうです。
私もその日のうちに本人から話を聞きましたが、HTO手術の適応になるのであればそのほうが良いと思い、賛成しています。
●再度勧められる人工関節
次の診察にときに主治医の先生に相談をすると、どちらかというと今回のケースは人工関節のほうがオススメだが、本人の意向は大切なのでHTO手術を希望されるのであればできますよ、とおっしゃってくださったそうです。
人工関節がオススメな理由については特に詳しく聞かなかったそうなので不明ですが、人工関節置換術に比べ術後のリハビリが長くなってしまうことや、人工関節置換術のほうが手術実績が多いこと、父が65歳を超えていたので一度人工関節を装着してしまえば耐用年数切れの再手術になる可能性は低い(今の素材だと20〜30年は使える)こと、等があるのかもしれない――と思っています。
ただ、あくまで私の勝手な想像なので全然違うかもしれません。
本人は診察後に少しだけ悩んでいたようですが、やはり人工関節は気が進まないという思いが勝ったようで、HTO手術をお願いすることになりました。
●やっと手術に
その後の術前の検査(かなり長かった&大変だったようです)などを乗り越え、めでたくHTO手術をやってもらえることになりました。
脛骨をスパッと切り、そこに腸骨から切り出して持ってきたくさび状の骨を埋めてX脚にするという構想の手術となりました。
そのほか、内側の半月板も損傷していたのでその縫合もおこなったらしいです。
手術は無事終了。
もちろん骨はすぐにくっつきませんので、ひとまずは金属で固定となります。
●リハビリは人工関節置換術より大変
本人も事前に説明は受けていたそうでしたが、リハビリがけっこう大変だったようです。
人工関節置換術の場合は手術翌日から歩くリハビリを開始できますが、HTO手術は骨が癒合しないといけませんのでとにかく時間がかかります。骨を切っているのでその痛みもあり、リハビリは想像以上に厳しいものでした。
入院期間も長く、記憶が正しければ一ヶ月くらいかかっています。
そして退院後もすぐに全荷重OKとはならず、松葉杖を使いながらのリハビリが続きます。これもかなりしんどかったようで、本人も気が滅入っていたようです。
●やはり自分の関節が残せるのは素晴らしい
しかし長いリハビリを終えると、本人の話では、
「痛みが全くなくなった」
とのことで、大喜びしていました。
変形性膝関節症だったことが嘘のよう、とのこと。
右足だけX脚になったので最初は若干バランスが変だったそうですが、それもすぐに慣れて、違和感なく歩けるようになったようです。
HTO手術を選択したことは、本人としては大満足だった模様です。
私としても、手術適応なのであればHTO手術のほうがよいと思います。
人工関節ですと金属がグラついてきて再手術となるリスクがありますが、HTO手術ならばその心配がありません。
何よりも『自分の膝が残せる』ということが大きいのかなと思います。
人工関節置換術を検討中で、かつHTO手術の存在をご存知なかったかたは、主治医の先生に適応になるのかどうかの相談をしてみるのもよいのかもしれませんね。
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