KAC20232 ぬいぐるみ

@wizard-T

ぬいぐるみ

「わたしは、とっても、わるいこです」


 わたしは、そういうしかなかった。


 かずみちゃんとかずみちゃんのママが、こんなになっちゃうなんて。


 わたしは、なんにもしらなかった。

 ママも、あたまをさげてる。


 ああ、ぜんぶ、わたしのせい。







 このまえ、わたしはかずみちゃんのいえにママといっしょにあそびにきた。


 そこにあった、ちっちゃなぬいぐるみ。くまさんににてるけど、ちょっとひょろひょろしててそれはそれでいいかなってかんじのぬいぐるみ。

「これは私のおばあちゃんが私に持たせてくれたんです、私が嫁入りする時に」

 かずみちゃんのママはそういってたけど、わたしにはいみはわかんなかった。


 とにかく、そのぬいぐるみがほしかった。だから

「ねえかずみちゃん、それちょうだい」 

「ダメ」

 といったらかずみちゃんのママはことわった。すごくあっさりとことわった。でもわたしはほしかった。

「まあちょっとだけなら」

「ダメです!」

 ママもいったけど、かずみちゃんのママはよけいにおこっちゃった。ものすごく、こわいかおをして。

「このぬいぐるみは昔、私の祖母がどうしても大食いがやめられなくて食べ物を食べ尽くしちゃって、それで」

「やだー!ちょうだいちょうだいちょうだい!」

 それでそんなこわいかおでなんとかいわれたもんだから、わたしはこわくてなきたくなり、さらによけいにぬいぐるみがほしくなった。

 きがつくとわたしはかずみちゃんのママをたたきまくり、そしてけちとかだいっきらいってなんじゅっかいもいった。 


 けっきょくどうしてもってことでそっくりなぬいぐるみをママにつくってもらったけど、ちっともすきになれない。

 わたしはどうしても、あのぬいぐるみがほしかった。


 だからおととい、かずみちゃんのいえにいったとき、こっそりもってかえっちゃったんだ。ママにも、パパにもないしょで。

 ずっと、ぬいぐるみさんとあそんでた。

 こんなにたのしいことはないってぐらい、ふかふかしてて、それなのにすごくおなかがたぷたぷしてて。

 ほんとう、すごーくしあわせ。

 でもみつかるとおこられるから、ひそかにしまって、もふもふ、もふもふ。

 ほんとうに、しあわせ。

 



 そしてきょう、であったかずみちゃんとかずみちゃんのママは、ものすごくふとってた。


 たべても、たべても、まんぷくになれないんだって。


「私の祖母の、過剰な食欲を鎮めるために……」

「え?」

「要するにものすごく食べ過ぎちゃうって事!ってまさか!」


 そしてママは、あのぬいぐるみのいみをおしえてくれた。


 あのぬいぐるみには、なんでもたべたいってきもちをおさえるちからがあるんだって。

 そんなこと、わたし、なんにもしらなかった。


 わたしは、とっても、わるいこ。


 だから、ごめんなさいってあやまった。


「本当申し訳ありません……今すぐ返します……」

「ごめんなさい、すごく、かわいくって……わたしは、とっても、わるいこです」




 ああ、おなかがすいた……ふつかかん、なんにも、たべてない、から……。


 でも、わたしはわるいこだから、しょうがないよね……。

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