取得スキルは「ぬいぐるみ」⁉

取得スキルは「ぬいぐるみ」⁉

　スキル「ぬいぐるみ」ってなんだよ？　もっと、こう、かっこいいスキルが欲しかった。だが、スキルカードを引いて出たスキル名は冒頭のとおりである。

　俺は南（みなみ）豊（ゆたか）。この世界に転移してきたばかり。異世界転生が流行っている世界からの、突然の転移。

「ゆーちゃんがまた、難しい顔してるぅ」

　幼馴染（おさななじみ）の友だちや知り合いは俺のことを「ゆーちゃん」と呼ぶ。女じゃあるまいし「ちゃん」づけで呼ばれていることに納得がいかない。

「悪いかよ」

　もともと顔つきは悪いほうだと思っている。目は裸眼だが近視と乱視で、ものを見るときは目を細めてしまう癖がある。その上に友だちに言わせればゴツイ顔立ちなのだそうだ。なので、まるで睨（にら）んでいるかのように見えてしまうらしい。

「ゆーちゃんのスキル、なに？　なに？」

「そういうお前は何のスキルだよ？」

　えへへ、と笑ってごまかすあたりがなんとも可愛い。

「すーちゃんのは、ドールだったよ。ゆーちゃんのは？」

　すーちゃんこと、野中澄江（のなかすみえ）は一緒に転移してきた。澄江が自信満々に言う。

「それって役に立つのか？」

「うーん、たぶん。物を操れるんじゃなかったかなぁ、たしかさ」

「で、ゆーちゃんのは？」

「当ててみろよ」

「頭文字はー？」

「ぬ、だ」

「ぬ？　ぬ、ぬ、ぬ、ぬ……」

　ぬぅ、と唸っていたかと思うと、突然「ひらめいた！」かのように、

「ぬいぐるみー」

　俺はぎょっとした。まさか当てられるとは思ってもいなかった。

「……だったらいいなー」

　当たっちゃった？　と付け加えた。

「ぬいぐるみって何だよ。どうやって使うんだよって、さっきは途方に暮れていたんだ。男としては、そのー、は、恥ずかしいだろ」

「恥ずかしくなんかないよ。たぶん、魔法のように使うんだよ。きっとさ」

　頭上で両手を大きく開いて、回すしぐさをしながら

「ゆーちゃんのぬいぐるみ姿見たいなぁ」

「ほら、ゆーちゃんもやる」

　これ何の儀式だよ、と俺は、ぼやいた。