いつまでも一緒に

天昌寺 晶

ずっと一緒

 小さな頃から今に至るまで、ずっと大切にし続けているぬいぐるみがある。

 そのぬいぐるみは、私が生まれた時から、社会人となった今に至るまで、ずっと同じ空間で生活を送ってきた宝物、兄弟のような存在だった。


 そんな他のものとは違った、何か特別なものであるからであろうか、変に愛着が湧いてしまっていた(兄弟のように感じたのもこのせいだと思う)。


 これらのような存在である、このぬいぐるみとの思い出は数えきれないほどあるが、その中でも印象深い出来事をここでは語ろう。


 5歳頃だったか、家族でイタリアに旅行へと行った際だった。


 ナポリにあるシーフードレストランへ訪れ、そこで食事を楽しんだ後に事件は起きた。


 シーフードレストランを後にして、私達家族一行は前日に予約しておいたホテルへと向かった。

 そして、ホテルに着き、各々の部屋に入り、荷物を整理している時に、親が見落としているものを当時5歳の私が思い出した。


「あぁっ!!ぼくのぬいぐるみがない!!」


 そう。

 その見落としていたものとは、私が生まれた時から、常に一緒にいたぬいぐるみだったのだ。


「あらっ!本当だわっ!」


 母も、私のぬいぐるみが無くなっていることに驚いた。


「けいちゃん(私)?どこに忘れてきたの?」


 母は、私が忘れてきた場所を覚えているだろうと思い、聞いてきた。


「わからないよぉ...、どこにわすれたかわからないよぉ...」


 私は知るはずもない為、母の問いかけに分からないと、泣きながら答えるだけだった。


 母は私の答えを聞き、どうしようか悩んでいた。

 そんな時だった。


 プルプルプル...プルプルプル...


 母の携帯電話から着信音が鳴った。

 母は相手の電話番号を見て、誰だろう...と呟いたが、一応電話に応答した。


「もしもし...、はい、はい、えっ...?えぇっ!?本当ですか!?ありがとうございます!!すぐに取りに行きますのでよろしくお願いします!失礼いたします!」


 最初はローテンションだった母だったが、相手の話を聞くや否や、ハイテンションへと昇り上がった。


「どうしたのおかあさん?」


 急にテンションが上がった母が気になり、先程まで泣いていたのに、すっかりと泣き止んで聞いてみた。


「けいちゃん良かったわね!!」


「?」


「けいちゃんのぬいぐるみを見つけてくれた人から電話が来て、渡してくれるって!」


「えぇっ!?ほんとに!!?」


 なんと、電話主は私のぬいぐるみを見つけてくれた人で、さらに日本人でした。

 たまたま、シーフードレストランで隣の席に日本人の家族と一緒になったのですが、私達家族が先に店を後にした際、私が座っていた席に、ぬいぐるみが置き忘れられている事に気づき、店主に予約者リストに書いてあった私の母の携帯電話番号に電話をかけてくれたのです。 


 その後、両親と私は、相手が指定した場所で待ち合わせ、無事にぬいぐるみを受け取る事ができました。


 この経験から、私はぬいぐるみを極力外へ持ち歩かないようにしました。


 この経験が宝物のぬいぐるみとの思い出でした。

 

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いつまでも一緒に 天昌寺 晶 @tensyouziakira

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