ハッカー少女

夕日ゆうや

ピンクのぬいぐるみ

 ぬいぐるみ。ぬいぐるみ。

 その部屋はぬいぐるみで覆い尽くされていた。

 ピンクのぬいぐるみばかり。

 そしてその持ち主もピンクの髪に、ピンクのワンピースを着た少女だった。

 ピンク色のパソコンに、モニターが三台。

 ハッカーである少女は攻撃プログラムをネットに流し、とある機関のシステムをダウンさせる。

「あはは。楽しいな~♪」

『アシストシステム・ドール。起動したよ! これより内閣府のハッキングを開始!』

 画面端に映るぬいぐるみのようなAIアバターがくるくると回転を始める。

 システムをハッキングし、内閣府を破壊する目的がある。

 私はそのハッキング、攻撃の理由を知らない。でもそういった依頼がきたのだ。やるしかない。

 裏の世界で生きている根無し草に断る理由なんてない。

 私は機械言語を直接読み取る能力がある。

 そしてサイバー庁がつけた名が『コードネームぬいぐるみ』。

 私のハッキングは成功し、内閣府から必要なデータを抜き取り、とどめに破壊プログラムを走らせる。

 ついでに私の戸籍などを消去する。

 これでもう私はこの世に存在しない。

 データ上は。

 データなどこうもたやすく書き換えられる。

 私の銀行の資産も、すでに大量のお金で満たされている。

 そのお金でピンク色のぬいぐるみを買う。

 買うと言ってもネット通販を利用する。

 私はこの部屋から出ることはできない。

 すべてあのしもべ。とらわれの身。

 でも私はそれだけでいい。

 ピンク色のぬいぐるみに囲まれていたら、それで幸せだ。

 だから他には何も望まない。

 望む必要もない。

 今日もまた弁当が届く。

 生かされている。

 ここを出ても一人で生きていく自信なんてない。

 だから、私はここでいい。

 狂ったようにパソコンのキーボードを叩き、毎日のように世界を乱していく。

 それが仕事だ。

 この世には理解のできないことがある。

 だから私はそれを壊す。そして正しい秩序を与える。

 ぬいぐるみとともに――。

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ハッカー少女 夕日ゆうや @PT03wing

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