カホコさんの森の本屋

らび

第1話

 さわさわ。

 そよそよ。


 今日は木の葉がゆれるくらいのやさしい風が吹いています。

 ここは静かな森のまんなかの、太っちょの木の穴の中にある小さな本屋さん。

 ある日、中が空洞になった大きな木を見つけたカホコさんは、その穴の中にたくさんの役立つ本を運んで、本屋さんを始めました。


 カホコさんは小さな窓から頭をひょこっと出して、外の空気を吸い込みます。


「今日もいい日になりそうね」


 これはカホコさんの日課で、こうすると本当にその日一日がいい日になる気がするおまじないでもあります。


「さて、本にも今日の空気を吸わせてあげましょう」


 この本屋さんを始めたとき、木の表面の凸凹に穴があいているものや、木の皮がうすくなっているところがありました。

 カホコさんはその一つ一つに枠とガラスをはめて窓を作ったので、全部開けて回るのが大変です。


 窓を全部開け終わると、今度はエプロンをつけてハタキを持って、店じゅうの本の上を、やさしくぽんぽんとはたいてきれいにします。


 毎日おそうじしているので、本にはほこりなんてほとんどありません。

 けれど、ハタキでぽんぽんとしたあとには、本が爽やかになっているように見えるので、カホコさんは毎朝こうしています。


「おやおや、毎朝ご苦労なことだね」


 空の上で何かがキラリと光りました。

 おしゃれなカラスさんの首飾りです。


「カラスさん、今日もおしゃれですね」

「なにか気がつかないかい?」

「あら、羽のツヤがとってもきれい!」

「アンタから買った本の通りにしたら、前より良くなったんだ。仲間たちからもどうやったらそんなに綺麗になるのか教えてほしいと言われてね。今日はこの羽をアンタに見せに来たんだよ」

 

 カラスさんはカホコさんの近くの木の枝にとまると、得意げにくるりと一回転してポーズを決めます。

 黒くつやめく美しい羽を見せに来てくれて、カホコさんはとっても嬉しい気持ちになりました。


「やっぱり今日はいい日だわ」


 カホコさんはにっこり笑いました。

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