第15話 DNA鎖の蛇の終焉
衣子と雪芸が再会した。めぐみが生まれて以来だから37年ぶりになる。
8月15日。極秘会談を成功させるために、BRONZE-FROzenが盾になってくれた。
「お久しぶりです、衣子さん」
雪芸が深々と頭を下げた。銀河一歩手前のラファエルとミカエル検域の端っこにある小さなベンチでふたりは静かに話をはじめた。
「お元気でしたか、と聞くのもアレですけど、、、」
衣子はすでに時空旅人ではなくなっていた。ファリサイリバーの開門を許可したのも衣子であり、自分自身も永遠輪廻から逆転効果の処分に甘んじる覚悟もしていた。
「もちろんだよ。と言いたいのだけれど、君を目の前になんと言ったらいいのかわからないというのが正直な気持ちだよ」
ふたりは互いに目を交わらせることせずに何かを見つめていた。金海だ。銀河の先にある金海はMjustice-Law家のゴールであるとも言われている。時空旅人が探し出す任務があるとも聞いていた。衣子は騙されたと感じたこともあった。今目の前に広がる金海には娘とかつての夫と自分と、そして舅である朱雀雪芸がいる。
「あれは、、、幻でしょうか?」
左目からつたう涙に衣子は大きな意味を感じていた。
「僕たちがどこから来てどこへ行くのか、それは未来の僕たちしかわからないことだった。君には申し訳ないことをしてしまったとずっと悔やんでいる」
左目から溢れ出る涙が硫黄のように地面の草を枯らしていく。
「あなたの左目はいつからそんなふうに?」
黙する衣子を察して雪芸は「率直に」と気遣いをした。
「2000年です。目玉を取り替えられたんです、12月31日、再婚した夫と息子も一緒でした。時空旅人だと信じていたのに、とっくに感覚鈍麻が始まっていた死人だったんです」
それを聞いた朱雀雪芸は右目から涙を流した。言葉にならない思いを言葉にしてきた自分の人生がいかにつまらない日々だったのかと悲しみが心を覆っていく。右目からこぼれ落ちる涙は金海につながっていった。見つめる向こうでめぐみがこちらに気づいて大きく手を振った。
衣子も雪芸も素直に反応して笑顔で手を振り返す。
「お父さん、スカーニーさんのことよろしくお願いしますね」
衣子は左足から立ち上がろうとしたがすでに臓器の腐食の最終段階になっていると見えて立ち上がることができない。ケルビムからアーサーがセラフィムからヴィクトーがすぐそこまで迎えにきていた。
「ああ。わかった。衣子さん、今までスカーニーのことありがとう」
衣子の右目からこぼれ落ちた涙がめぐみのいる金海に転がっていく。めぐみはそのガーネットをすぐに拾い上げて大声で衣子を呼んだ。
「お母さん!ありがとう!大切にするね!!」
衣子は嬉しそうに微笑んでヴィクトーとアーサーにその身を預けた。
朱雀雪芸は衣子を見届けてから、金海の門番に声をかけた。
「君の仕事もそろそろ忙しくなるから、よろしく頼むよ」
8月31日、朱雀雪芸は時空旅人から鉄原野へと帰還の途に就いた。
朱雀雪芸から名を恩賜芍薬と変えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。