第12話 Part of Removed in Book=Flag

言葉を集めた本によって成立した国から一本の旗が生まれた。その旗の下に人々が平等であることを言葉が認定し、それがまた本になった。


本によって旗は意味を持ち、旗のために本が作られる。


DNA鎖の蛇は2連である。SWYとUBYの鎖は2連であるから交わることはあってもその道は独立していた。


亜種白路は本によって成立した国から一本の旗が生まれた歴史をよく知っている。しかし、その本がかつては旗のために作られた歴史までは知らなかったようだ。


麻野道信も多胡開望も亜露村の保養地で出会っている。保養地を管理していたのが紀平智柚と有栖川美江の両親だったために、彼らは麻野道信や多胡、スカーレットやカナリヤからも「先生」と呼ばれていた。紀平と有栖川が亜露村から大量の薬物を密輸入していた話がそろそろ刑事告訴されようとしている。


「産地偽装は誰でもやっていますから」

麻野道信はそう言って亜露村の人々を安心させて契約書を交わさせた。もともと田舎の人間だから村のことしか知らない。麻野道信をはじめとした亜種白路たちが何を目的としているのかを疑うことさえなかったという。

亜露村の人間たちは先生と呼ばれることで有頂天になった。



2013年、帝都はそんな彼らのひとりとして亜種白路と契約を結んだ。すぐに違和感を感じて基実を通じてスカーニーのもとに駆け込んだことが幸いして恵と再会を果たすことができた。

「でもなんで亜種白路って名前がついているんですか?あれはちょっとやりすぎですよ」

ホワイトハウスという公邸名を連想させる。

「亜露村の種族のホワイトな路を歩んでいるから」

「自分達のことなにひとつ語ってないじゃないですか」

「自分達のこと語ったら自分達だってばれちゃうじゃん」

帝都はスカーニーの目を見てぐっと唇を噛み締めた。

「君のことはずっと知っていたよ。君にも嫌な思いさせてしまってごめんね」


亜種白路と契約したのはたまたま自分が亜露村の出身だったからなんだろうか。でも基実は違う。あいつはスカーニーたちと直接契約した。だから俺は言われのない誹謗中傷を長年言われ続けていた。

恵はまだ何も知らない。この世界の何が本当なのかわからなくなる。相談できる相手もいない。会わせてくれるという約束は一向に叶いそうにない。

契約書署名に同席した寄田も須野も最近はなぜか自分と恵を合わせないようにしている気がする。


2018年、恵は結婚した。

話が違う!!!

帝都も基実も雇用主と大喧嘩をした。商標権の問題まで噴出して名前まで奪われてしまった。先に動けなくなったのは基実だったと帝都は後になって知った。


2023年の初冬、スカーニーの暗殺未遂事件が起きた。

犯人探し協定を結ぶために23年ぶりに帝都と基実は再会した。

恵のこともあるから冷戦状態が20分続き、そのあと言葉をふたつみっつ交わした後の1時間は殴り合いになった。

言いたいことが山ほどあったけれど、おしゃべり下手なふたりは23年分の怒りをすべて吐き出すように殴り合った。


そして一本の旗が立てられた、「BOOK=FLAG」である。帝都と基実の連合艦隊としてリニューアルしているにもかかわらず2020年旗印のそのまま艦隊は出港することになった。船員は三閉免疫症候群だから、亜露村の人々や亜種白路が帝都を頼りに乗り込もうとすれば待ち構えている三閉免疫症候群によって別船に連行される。


「産地偽装なんて誰でもやっていますから」

亜種白路の言葉を逆手に取れるほどに帝都は強くなっていた。






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