第10話 DNA鎖の相性

「知らなかったの?めぐちゃんのおじいちゃんは朱雀雪芸だってこと」

驚いた。おじいちゃんってことは父の父でもある。

アレとアレに血のつながりがある、、、なるほど、そしてあたしか。

「ねえ、翠蘭さん、お父さんのこと好き?」

「なに?何今更?え、、、なに?」

戸惑う翠蘭さんを上目遣いで見つめる。あたしは異性愛者だから恋をしているわけじゃないけど。


あたしは最近、血族と相性について面白いことを解明した。

同族嫌悪という言葉があるように血族の父にはなんとなくムカつく感情をぶつけることが多い。八つ当たりに近いかもしれない。

でも翠蘭さんとあたしは血のつながりがなくて相性がいいからこそ大切にしようという気持ちがある。遠慮しているんじゃなくて、ただ好きだから嫌われたくない。それだけのことだ。

父とあたしは血が繋がっている。だから趣味嗜好が似ていたとしてもなんらおかしなことはない。翠蘭さんを愛した父と同じようにあたしが翠蘭さんに嫌われたくないという気持ちは相性なんだと思うのだ。


朱雀雪芸はあたしの憧れだった。明晰な弁証法を用いた冷淡な作風は恐ろしいほどに客観的であり、読者を本当に架空の世界に引き摺り込んでしまう。比喩なく他意なく彼の作風は恐ろしい。

そう評される朱雀雪芸の作品を亜種白路たちは嫌っていた。百舌鳥柄たちは学生時代に朱雀とやり合っていることも記録されている。

優雅さと愛に満ちた熱情のあの人が父とあたしと血がつながっている?本当だろうか。


「めぐちゃんが生まれた時のおじいちゃまよ」

翠蘭さんが朱雀雪芸があたしの写真を見ている写真を見せてくれた。すぐに誘拐されたから初対面は写真だったという。


「ちょっと待って!あの人この時もうすでに死んでるんじゃないの?!」

「公式発表なんてみんな仕事の都合によるものだって」

翠蘭さんがゲラゲラ笑う。

「ちなみに何歳まで生きたの?」

「87歳だったと思う。あとでスカーニーに聞いてみたら」


父にそっくりだ。

血のつながりは本当だと思った。

それにしても翠蘭さんはよくもこんな頭のおかしな一族の嫁に来てくれたと思う。

「ただいまぁ」

基実くんが帰宅した。昼ごろ、帝都のことを褒めすぎてヘソを曲げていた時に偶然街中で会ってしまったからバツが悪い。


フィアンセがふたりいる、基実くんも帝都もよくもこんな頭のおかしな一族と関わってくれているものだ。


「翠蘭さん!!基実くんと帝都のことよろしくね!!」

ふたりの気持ちをわかってくれるのは父ではなく、きっと翠蘭さんひとりだけだと思うと涙が溢れてきた。


ふたりが若干引いていることは客観的に判断することができる。

あたしはこれでも朱雀雪芸の孫だから。





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