DNA鎖の蛇-数学的宗教遺伝子について-
恩賜芍薬/ Grace Peony(♂=
第1話 備え
私は遺伝子配列についての研究をどうしてもLeeにお願いしたかった。ふたつの国のためにというと優等生すぎる言葉になってしまうかもしれない。
わざわざ医学部で医師免許を取得してもらったのは彼の表向きの仕事を医者とするためだった。血液検査ができる。その権限を持っているのは医者だけだからだ。
死恋狭窄遺伝子については20世紀にはすでに概説が体系化されていたと元老院の蔵書部屋で読んだことがあった。教育儀礼では細かに教えてもらわなかったから恵が誘拐された時に困ったことも多かった。
無論、元老院の娘が誘拐されるなんて誰も想像していなかったわけだが。
Leeの緻密な計測と膨大な資料の統計と検査結果によると、現在では死恋狭窄遺伝子の他に三閉免疫症候群、百舌鳥柄遺伝子、亜種白路遺伝子、流狼遺伝子が存在していることがわかった。
百舌鳥柄遺伝子に関しては18世紀ごろにはすでに、三閉免疫症候群は19世紀ごろから発生したと言えるらしく、亜種白路遺伝子の発生は20世紀、それも1980年代後半からとかなり詳しい結果が得られた。
死恋狭窄遺伝子には複合存、単存、合存がある。
遺伝子は12に分かれその組み合わせで複合存なのか、単存なのか、合存なのかが決まっていく。
教育儀礼で習ったことにひとつ重要な秘密が隠されていると私は想像していた。
12の部屋にはそれぞれの司祭が存在しており、現状空室にあるのは6と8と10。
これらの複合存がもしかしたら恵なのかもしれないと推理したのだ。
「衣子、恵は誘拐された瞬間からどこで誰によって人質となっているかを僕たちみんな把握しているのにどうしてそんなに遺伝子にこだわるんだよ」
80年代末期、平成に差し掛かろうとしていた頃にLeeが不思議がって聞いてきた。
「恵になりすます人間が必ず出てくる。その時に現代科学の何で証明できると思う?唯一遺伝子なのよ」
私の想像は見事当たった。
「あの子は元老院の子だから光のアレルギーを持って生まれるはず。光のない時間に生まれてきたのだからなおさらよ。あなたはその時に彼女の主治医になってほしいの」
Leeは私を恐々と見ていた。
20歳そこそこの女に宿った母性があまりにも大きく信じられないという顔だった。
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