Rondo=Bolero -Mjustice-Law家の肖像-

恩賜芍薬/ Grace Peony(♂=

第1話 Rondo=Bolero

高名な作曲家ラヴェルのロンドをご存知だろうか。

繰り返し繰り返しながらだんだんとクレッシェンドが大きくなっていく。

行為は変わらず、それでいて知らぬ間に存在感を感じさせていく。周りが気づいた時にはすでに巨大な何かになっていた。

あたかもはじまりから巨大であったかのように。


Mjustice-Law家とはそのような存在だと評されることがある。

19世紀初頭、初代当主のSenested-Xiao(セネステッド・シャオ)について2023年の現代で彼の存在を知るものは少ない。

彼の両親はそれぞれがロシアとフランス、英国と中国のハーフだった。両祖父母は時の王朝の次男坊、または次女で、それぞれに時の権力とは無縁だった。

代わりに彼らに与えられた役割というのが、参謀とか金庫番のような事務仕事だったために金融には遺伝子からして強くなっていったと言えるかもしれない。


産業革命、フランス革命、ロシア革命、それから日中戦争。これらの混乱を引き起こしたのは厳密に元を辿っていけば紛れもなくMjusitice-Law家の人々だ。

王族ではなく、王家の血筋であるけれど、そのほとんどが参謀で金庫番。

これ以上の説明は必要あるまい。


彼らの先祖が混乱を引き起こし、獲得しようとしたものが独立した家族だった。

王朝の次男や次女としてではなく、参謀や金庫番などの与えられた役割ではなく自らが自由に振る舞える身分であった。


目論見は見事成功し、19世紀初頭には今のMjustice-Law家の基礎が確立された。


現当主は山蘇野正良である。日本を本宅としているのは妻の衣子との出会いが日本であったことと、初子の恵が誘拐されてしまったからであることは世界中にとって暗黙の了解である。



85年2月28日、衣子に宿った命に世界中が歓喜した。

他方、日本国内では黒い嵐が少しずつ集団を形成していった。

ボレロのように小さい音が少しずつ集団化し、組織化していった。

それは宗教であったし、それは経済圏であったし、それは政治であったし、それは思想としてもまとまっていった。


白百舌鳥連闘は日中戦争の事実を知る戦時下の残党である。

幾度の政治戦争に国内で敗退を喫した彼らが逃げ延びた小さなコミュニティビレッジがある。

亜路村。

この村にはもともと恵の養父のように三閉免疫症候群や流狼遺伝子を系譜とした人々が暮らしていた。穏やかに静かに隠匿の美を享受するように三閉免疫症候群の人々は地上の95%が所属する流狼遺伝子の人々とうまくやっていた。


恵の養父はどういう事情からか白百舌鳥連闘の残党の娘と結婚した。

85年の春、恵の養母は子どもができたと言った。

嫁ぎ先は夫と舅という男所帯。女の体の小さな変化を疑う人が家内にはいなかった。



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物語はインマヌエルが朗々と語っていく。俺と卓は時々質問をして物語の解説を求める。

俺が生まれた時から両親は俺に姉の存在をいつも聞かせてくれた。もちろん卓の存在も。

「そうなるものなの」という出どころ不明に感じられる父母の微笑みが最近少しずつわかるようになってきた。

卓を見た時、姉を見た時、そして白百舌鳥連闘の存在をこの体で感じた時だった。


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「荒野の米は砂糖より甘い」

亜路村に伝わる因習だ。

呪いの言葉を逆手にとって行動できる人間は少ない。少なくとも帝冠保持者とならなければその呪いに食い殺されてしまう。

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「卓は?食い殺されたの?」

「知らねえよ。お前の父さんがこれで行けって言うんだもん、やるしかねえじゃん」

俺の親父は山蘇野正良、Mjusitice-Law家の当主だ。




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