第6話 primary4-2
血のつながりがなくても、こんな風にお互いを思い合える人たちもいるのに。
茜と麻生の関係は、紗子にとってはひたすら憧れでしかない。
が、当事者の茜は難しい顔のままだ。
「そうなのよね・・・・・・真尋くんはさぁ、好き合ってるんだから、先のこと考えて一緒に暮らしたいって言ってくれたんだけどね」
「まだ踏ん切りがつかないんだ」
「せめて、もうちょっと真尋くんの彼女が板に着いてから、実家に話をしに行きたいなって思ってて、それから一緒に暮らして・・・・・・その・・・」
「それで最後に項を噛まれたいと」
先手を打って茜の心の声を代弁すれば。
「っ、い、いつかね、いつか・・・」
すぐにじゃないよ、と茜が慌てた様子で念を押してくる。
「じゃあ・・・・・・麻生さんとは・・・まだ?」
「うん・・・・・・キスは・・・した」
「
アルファとオメガがそういう雰囲気になって、
オメガであることが分かってから、恋愛どころではなくなってしまった紗子にとって、好意を寄せるアルファと触れ合った際の身体の変化は気になるところだった。
「・・・・・・真尋くんね、私が
真尋がどれだけ茜に執着しているのかが痛いくらい理解できる一言だった。
あの日の彼が市成だったのなら、彼もまたその極少数ということになるのだ。
穏やかで理性的で、アルファ独特の威圧感は微塵も感じられなくて、まるで絵にかいたような理想の王子様だった。
「じゃあ、茜はまだベータの麻生さんとしかキスしてないんだ?」
「ん・・・私がそれを望まないなら、一生ベータでいいって言ってる。抑制装置もつけっぱなしにするからって・・・」
「・・・・・・・・・そんなアルファほんとにいるんだね」
「私も、こんな身近にいた事にびっくりよ」
「麻生さんに告白されて、どうだった?」
「・・・・・・・・・びっくりしたけど、すごく嬉しかった。なんかね、身体がふわふわ軽くなった気がして・・・ああもう怖いことはなにも起こらないんだなあって思えたの・・・・・・キスもね・・・すごく気持ち良くって・・・・・・真尋くんの唇が離れた後は、物足りなく思えたりもして・・・・・・私、そのうちベータの真尋くんに勝手に
「好きなら
だって受け止めてくれる人がいるのだから。
どんな変化も見逃さず全力で守ってくれる誰かがいるなら、心と身体はどこまでだって自由になれる。
紗子の言葉に、茜がゆっくりと頷いた。
「・・・・・・・・・それは、ちょっと思った・・・・・・・・・このまま
「でも、オメガだから、麻生さんと結ばれるんだよね」
「・・・・・・・・・そうなりたいな・・・って・・・思ってる」
「応援してる」
「うん・・・・・・ありがと。あ、そうだ、紗子は最近体調どうなの?」
「相変わらずよ。でも、あれ以来ここで突発的な
「そっか・・・・・・良かった。真尋くんも心配してたよ。私同様に面倒見るって言ってたから、何か困ったことがあったらいつでも相談してね」
そっと両手を包み込まれて、その気遣いと優しさを胸いっぱいに吸い込む。
いまこの町で誰より信頼できるのは、茜と真尋なのだ。
大きく頷いてから、この一週間ほどずっと気になっていた事を口にすることにした。
「頼もしいよ。ありがとう・・・・・・・・・あの・・・・・・あのね、茜・・・・・・メディカルセンターの、市成さんって・・・知ってる?」
紗子の言葉に、茜が一瞬きょとんとなってから、パチパチと目を瞬かせる。
「うん・・・知ってる・・・っていうか、挨拶した程度だけど・・・なんで?」
「こ、この間、図書館に来られてて・・・・・・・・・親切にしてもらったから・・・・・・その・・・ちょっと気になって・・・」
「・・・・・・・・・メディカルセンターの事業部長補佐やってる人で、超エリートだよ。西園寺センター長の部下ね。華やかなアルファで・・・・・・・・・まあ、女性関係もそれなりみたいよ」
最後の方は言い難そうに言葉を濁した茜が、探るようにこちらを見つめてくる。
あの見た目で女性に囲まれないわけがないし、優良アルファを狙うオメガがこぞって詰め寄っている事だろう。
「ああー・・・・・・うん、そっか・・・・・・そうよね」
「え、もしかしてアルファとして気になってるの?」
「そこまでじゃないんだけど・・・・・・・・・どんな人なのかなぁって、訊いてみたかったの・・・・・・あんなに素敵な人なんだから、そりゃあ、引く手あまたよね・・・・・・」
自分がそこに名乗りを上げることなんて出来ないけれど、予想通りの返事で色々としっくりきた。
思案顔になった紗子に向かって、茜が苦笑いを零した。
「悪い人ではない、と思うけどね」
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