聖女様の悪役令嬢攻略記!@本屋さん

すらなりとな

本屋で失恋!

 さあ、始まりました!

 今回プレイするのはこのゲーム!

 「The Ultra Super Template ☆ 乙女ゲー」

 タイトルそのまま、実に王道な乙女ゲーとなっています!

 舞台は分かりやすく剣と魔法のファンタジー、攻略対象はイケメン王子に脳筋、頭脳派メガネ、幼なじみに親友に悪役令嬢とその取り巻きと、男女ともひと通り揃っています!

 うん、間違いなく王道ですね!

 王道にのっとって、キャラメイクから始まります!

 今回はキャラ名はデフォ通り、出身は下級貴族、パラメータを心に全振りします。

  名前:アーティア=ハイウェル

  身分:下級貴族

  資金:下級貴族にそんなものはない

  頭:アホ

  体:貧弱

  心:うるとらすーぱーみらくる超高強度異次元合金X並み強メンタル

 この状態でだいたい1145ミリ秒待って、スタート!

 ……理由は後ほど!

 とりあえず、面倒なオープニングはスキップ!

 動かせるようになったら、さっそく親友という名のお助けキャラ、アリスちゃんに話しかけましょう!


  アリスー! 助けてー! お金と頭と筋肉が足りないのー!


 これが普通の友達なら頑張れで終わるところですが、流石お助けキャラ、しょうがないわねぇ、と、某便利ロボットのようにパラメーターを上げる施設を紹介してくれます。

 部活にバイト、勉強会と色々ありますが、迷わずバイトを選びましょう。

 街の本屋さんを紹介してくれます。

 このバイト先はランダムで、10254種類から自動選出されます。

 が、乱数はキャラクリ時のキャラ名と決定ボタンを押したタイミングから計算されていますので、先程のキャラクリ時に乱数調整しておけば、ほぼ狙い通りのバイト先を選べます。

 だから名前をデフォにして、ちょっと待ってから決定ボタンを押す必要があったんですね!

 ちなみに、名前は後ほど主人公ちゃんが聖女になった時に、洗礼名として好きに変えられます。

 まあ、今回は変えませんが、気になる人は試してみてください。

 さて、説明しているうちに放課後になったので、さっそく本屋さんへGO!

 現実では並んでる本をサンプルで見て、気に入ったらスマホかざして購入なんて事も出来る世の中ですが、もちろん、ファンタジー(笑)にそんなものはありません。

 何故か横置きで本が積んである、いかにもファンタジーな本屋さんです。

「本を横置きに積んだら痛むので、良い子は絶対に真似しないでね!」

 そんな黄色いテロップを見ながら、店主の老夫妻に話しかけます。

 すみませ~ん! アリスの紹介できました!

 元気に挨拶すると、早速、働かせてくれます。

 重い本を動かして整理し、ときどき暇な時は本を読ませてもらいましょう。

 はじめは頭の悪さと貧弱筋肉のせいですぐへばる主人公ちゃんですが、常軌を逸したメンタルですぐ持ち直してくれます。

 ステが上がっていきますね~。

 これを続けていれば、弱い頭はちょっとマシくらいに、体は運動オンチくらいになり、ついでに資金も得られます。

 主人公ちゃんに足りないものすべてを補ってくれるステキなバイト先ですね。

 メンタル全振りに乱数調整までしたのは、この序盤の恩恵を得るためなんですね!

 でも、この本屋さんのバイト、ただステだけではありません!

 なんと、好感度も上げられます!

 なぜって?

 攻略キャラがこれから足繁くやってくるからです!



 # # # #



「あ、ちゃんとバイトしてるのね? 偉い偉い」

「わーい、褒めて褒めて?」


 本屋でバイトを初めて数時間。

 最初にやってきたのは、親友のアリスだった。


「うーん、私としては親友より一歩踏み出したいところ……」

「ちょっと目の前で怪しげなコト言わないでよ?」


 これ幸いと抱きついたのに引き剥がされ、頬を膨らませるアーティア。

 が、すぐによろめいて近くの椅子に座り込んだ。


「ちょ、大丈夫!?」

「大丈夫だいじょうぶ! ちょっと慣れなくてふらついただけだよ?」

「あんまり初日から飛ばさないでよ? 少しずつ慣らして行けばいいんだから」

「分かってるよぉ? あ、でもホントに倒れたら温かい介護をお願い」

「図々しいわねアンタ。ここまで鋼メンタルだと逆に感心するわ」


 言いながらも、隣に座って肩を支えてくれる。

 アーティアは甘えるように体重を預けた。


「アリスぅ、他にお客さん来てない?」

「来てないわよ。安心しなさい」

「アリスぅ、おじいさんとおばあさんは?」

「雇い主の名前くらい覚えなさいよ。今は二人ともいないわ」

「じゃあ、ちょっと休むから、後で起こしてー」

「はいはい、分かったから休んでなさい」


 無言の時間が流れる。


「アリスぅー、結婚してぇ」

「はいはい、他に好きな人が出来なかったら考えたげるわ」


 ときどき馬鹿な会話をしながら、


「む? キミ、大丈夫かね?」


 しかし邪魔はしっかりと入った。

 眠気まなこをこすって見ると、やたらイケメンな男子生徒がこちらを心配そうに見ている。きっちりと着こなした制服には、3年生であることを表す青いネクタイ。


「えっと、誰?」

「アーティア! 失礼よ! この方は!」

「いや、問題ないよ。それだけ元気なら、大丈夫のようだな」


 上級貴族なのだろうか。

 邪魔されて不機嫌な対応をしたアーティアに注意するアリスを、本人が遮る。

 すみません、と謝るアリス。

 アーティアも、慌てて立ち上がった。


「アリスが謝ることないよ! 悪いの私だし!

 すみません、えっと……」

「クラウスだ。うむ、本当に私の事を知らないのだな」

「す、すみません」

「いや、かまわんよ。むしろそちらの方が――」


 何か言いかけるクラウス。が、それを遮る甲高い声が響いた。


「クラウス様! こんなところに一人で来るなんていけません!」


 見ると、豪快に扉を開いて、ビシッと指を突きつける、いかにも高飛車そうな女生徒が、いた。

 学年は同じだろうか、アーティアと同じ赤いリボンを身に着けている。


「えっと、誰?」

「下級貴族が、先に名乗るのが筋じゃなくて?」

「私はアーティアだよ? で、誰? お客さん?」

「貴女……っ!

 まあ、下級貴族らしい自分の身分が分かっていない対応ですことっ!」


 見事な金髪ロールをかきあげ、アーティアを見下した目で見つめる高飛車な生徒。

 いかにもな悪役である。

 そんな悪役にアーティアは、


「すごい、アリス! 本物の金髪縦ロールお嬢様だよ!?

 あの目つきで見下されるとか最高!」

「ああ、うん、分かった、分かったから。ちょっと落ち着きなさい」


 興奮していた。

 ノーダメどころか回復である。

 恐るべきは強メンタル!

 高飛車な女生徒も、これにはドン引きである。


「ま、まあ、自分の身の程が分かればよくってよ!

 そ、それよりクラウス様!

 そんな下級貴族なんかと放課後を過ごすのはよくありませんわ!」

「何がよくないのかよく分からないな。キミは……」

「えー、よくないですよ?」


 悪役な台詞に反論しようとしたクラウスを、なぜか遮るアーティア。

 おうマジかコイツ、という目で見返す高飛車。

 アーティアは何故か頬を染めながら続けた。


「やっぱり、上級貴族は上級貴族同士、キラキラした場所で付き合わないと!

 上級貴族のお姉さまと下級貴族の私は、もうちょっとこう、埃っぽい場所で……えへへ」


 何か妄想を始めたアーティア。

 が、そんな頭の中までは感知できていないのか、高飛車はうなずいて続ける。


「アナタ、なかなか分かっていらっしゃるわね。

 ほら、クラウス様。彼女もこういっています。もう少し身分というものを――」

「ラティ、その辺にしておきなさい」


 が、調子に乗り始めた高飛車を、遮る声が響く。

 そこには、困ったように微笑む、お嬢様が、いた。


 それはまさしくお嬢様であった。

 流れるような美しい髪に、化粧もしていないのに輝く白い肌!

 制服までもがドレスのように輝いて見える!

 パチモン臭ただよう金髪縦ロールとは、オーラが違う!

 身分の高そうなイケメンと違い、こちらはアーティアにも分かる!

 王子の婚約者としても名高い、イザラ公爵令嬢!


 そんな本物のお嬢様前に、アーティアは固まり、高飛車は飛び上がった。


「お姉さま!? ど、どうしてここに?」

「課題で使う参考書を買い求めようと思いまして。

 ごきげんよう、クラウス様。

 私の後輩がご迷惑をおかけしました」

「う、む、イザラか。そういえば、彼女はキミの取り巻きだったな?」

「取り巻きだなんて。大切な後輩ですわ?」


 優しく微笑むお姉さま。顔を真っ赤にする高飛車。

 なんだうらやましいぞ、と嫉妬の涙を流すアーティア。


「お、お姉さまっ!

 本は私が買っておきますから、クラウス様とご一緒されては!?」

「まあ、それは――」

「ほら、下級貴族! お姉さまが本をご所望よ!

 薬学の『月見草の効用について』!

 さっさと取ってきなさい!」

「はい! ただいま! すぐに!」


 命令されて、ものすごく嬉しそうに本を探しに行くアーティア。

  ちょっと、ラティ、そういう言い方はよくありませんわよ?

  ! 申し訳ありません! つい……

 そんなやり取りに興奮しながら、本を片手に戻る。


「お待たせしました!」

「い、いえ。待っていませんわ。ありがとう、アーティア」


 支払いと一緒に、本を受け取るお姫様。

 が、アーティアはそれどころではない。


「え!? ええ?! 私の事、覚えてくれてたんですか!?」

「ええ、ずいぶん前になりますが、ご両親と一緒に、私の誕生パーティに来ていただいたでしょう?」


 貴族同士の付き合いのパーティ。

 確かに、アーティアはアリスと一緒に、イザラお嬢様と出会っていた。

 が、せっかくの再会を、高飛車金髪縦ロールが遮った!


「お、お姉様! クラウス様をお待たせしては!」

「まあ、そうでしたわね。

 失礼しました。クラウス様、それでは……」

「あ、ああ。仕方ないな」


 なんかイケメンと一緒に去っていくお姉さま!

 これには、強メンタルのアーティアも文句を言った!


「ちょっと! なんてことするの!」

「アーティア! 落ち着いて!」


 上級貴族に掴みかかる下級貴族!

 今まで黙って見守っていたアリスが、慌てて止めようとするも、


「しょうがないじゃない! しょうがないじゃない!

 私だってお姉さまと一緒にいたいわよ!

 でも! お姉さまはクラウス様と婚約者なのよ!

 貴族としての義務があるの!

 王子とは結婚しないといけないの!

 ああ、お姉さま!

 私は、ラティは無力です!

 百合に挟まるイケメンを抹殺できないなんて!」


 高飛車は泣いていた!

 血涙であった!

 思わず謝るアーティア。


「ご、ごめんなさい」

「グス。いいのよ。貴女が言うとおり、きっとキラキラした場所でお付き合いするのがお姉さまには似合っているの。手が届かないところの方が、星はきれいに瞬くのですわ」

「うん、でも、きっと、私達でもチャンスはあるよ!

 婚約者は無理でも、ほら、埃っぽいところで秘密の関係だってなれるって!

 お姉さまだって、いつか私たちのことを分かってくれるよ!」


 優しく高飛車の手を取るアーティア。

 いつの間にか、アーティアも泣いていた。

 血涙であった。

 手を握り返す高飛車。


「さっきはごめんなさい。貴女、お名前は?」

「アーティアだよ? ええっと……」

「ラティアナ。ラティと呼んでもらってよろしくってよ?」


 友情を超えた何かが芽生えた二人。

 アリスの目は死んだ。

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