人気のある本屋

はぐれうさぎ

第1話

「ちょっとごめんねー」


 そう声をかけながら混み合った通路をかき分けて進む。

 あいかわらず、この店は謎に混み合っている。

 そんなことを考えつつ、目的の物が置かれているであろうコーナーを探す。


「園芸コーナーはあっちか。

 ……けっこう奥だな」


 天井近くに掲げられたコーナー案内で目的の場所を見つけたものの、その位置にげんなりしてしまう。

 正直、混み合った通路を強引に突っ切るようなマネはあまりやりたくはない。


「まあ、行くしかないんだけどな」


 だが、目的の本を諦めて帰った場合にどうなるかを想像し、重い足を進めることにした。




「ふんふん、やっぱり色々と道具も揃える必要があるか。

 となると、次はホームセンターかな」


 園芸コーナーの棚に置かれた本を手に取り、パラパラと流し読みする。

 農業経験とまではいかなくとも、せめて家庭菜園に手を出した奴がいれば良かったのだが、あいにくと仲間内にそんな条件を満たす奴はいなかった。

 なので、仕方なく自由に動ける俺が参考になりそうなものを探すことになってしまったのだ。


「つーか、俺も農業のことなんてわかんねーんだけどな。

 ……まあ、それっぽいのをテキトーに何冊か持って帰ればどうにかなるか」


 そんな風に方針を定め、次々に本を手に取って確認し、使えそうなものを選ぶことにする。



「とりあえずはこんなものかな」


 5冊ほど選んだところで本を確認する手を止める。

 正直、それっぽいものがいくつもあるので選ぶのが難しい。

 かといって、目についたものを全て持っていくという訳にもいかない。

 何が彼らを惹きつけているのか分からないのだから。


 選んだ本をカバンに詰め、出口へと向かう。

 幸い、周りからの反応は特にない。


 来た時と同じように混み合った通路をかき分けて進む。

 そのまま無人のレジを素通りし、店の外へと無事にたどり着いた。



「しっかし、何が彼らを惹き付けるのかねぇ」


 十分な距離を取ったところで出てきた店を振り返る。

 荒れ果てた駅前に残されたこの町一番の規模を誇る本屋。

 その店内は、変わり果てゾンビとなった人々で溢れてかえっていた。

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