男たちの旅

光河克実

 

学生時代の友人と温泉旅行に出かけた。正午丁度に駅に到着し、ロータリーに出た俺たち四人は、目的地行のバスに乗る前に昼飯にしようと辺りを物色した。

「あそこでいいんじゃないか?」

長谷川が指さした店を見て俺は苦笑した。

「おいおい。せっかく旅行にきてMバーガーって。もっとこの辺りにしかない物を食べようよ。」

「でも、見渡す限りどこもチェーン店のようだけど。・・・」

田中の言う通り確かに目に入る店は、ラーメン屋その他、普段、近所でよく行くチェーン店ばかりである。

「あまりバス停から離れたくないな。」

川崎の一言に俺以外の二人が同調し、協議の結果、早い安い美味いが売りの牛丼屋で昼飯をかき込む事になった。(まさか週一で食べているこの店の牛丼をここでも食べることになるとは。・・・)俺は皆に聞こえないように嘆いた。

 昼食後、バスに乗り目的地の温泉街に向かった。ホテルのチェックインにはまだ時間があったが、荷物だけは先にフロントに預けてしまい身軽になろうという腹つもりである。

山間を抜け温泉街に着いた。長谷川の予約したホテルは日帰り温泉も楽しめる大型チェーン店だった。フロント辺りは家族連れで賑わい、小さい子どもが数人遊びまわっている。俺としてはもっと、味わい深い老舗の温泉旅館の方が好みなのだが、幹事の長谷川に全て任せたのだから仕方がない。

フロントに荷物を預けると、田中が

「俺と川崎は今からパチンコ屋に行くけど、お前らどうする?」

と聞いてきた。俺は驚いた。

「ちょっと待て。せっかく旅行に来てパチンコ?そんなの、いつでもできるだろう!」

俺は彼らの思考が理解できなかった。

「だって、特別行きたい所ないから。」

「それに観光地ってお金ばかり高いし。」

とボソッと二人が呟く。すると長谷川も

「まぁ、観光名所と言ったってどこも同じような物だしな。俺もそうしようかな。」

という同調の言葉。

「おいおい、せっかく温泉街まで来たんだぞ。」

「俺、ホテルで温泉に入って後は酒が飲めれば、それでいいの。」

「本来それが目的だしな。」

俺は三人その言い草に呆れ、(こいつらには旅情というものがないのか?)と心の中で嘆いた。

 結局、三人はホテル近くのパチンコ屋へ。俺だけが意地を張って、以前に買っておいたこの辺りの観光ガイドを片手にバスで観光に向かった。車中、山の上からの見晴らしの良い景色を眺め(あいつらも来ればいいのに)と思い勝ち誇った気分だったが、行く先々の観光施設はどれも以前、どこかで見たような場所の焼き増しのようだった。いかにも子どもが喜びそうな遊園地やトリックアート。何故かクラシックカーやフランス人形の博物館。それに昭和の街並みを再現したミュージアム。

 なんだか虚しい気持ちでホテルに戻った。既に他の三人はチェックインし温泉に入浴した後だった。

「どうだった?何か面白い場所、あった?」

長谷川の問いに

「まぁね。それよりお前ら、俺を待たずに風呂に入るってどういう事?」

と言うと

「だって、いつ戻ってくるかわからないし、他にやることないし。」

と弁明した。

仕方なく一人で大浴場に行った。他に客はなく、ポツンと一人露天風呂に浸かると、余計に孤立感が増した。

「あいつらと旅行なんて来なきゃよかった。」

と呟いた。

夕食はバイキングで、四人で和食やら洋食やらを取り分け、終了時間までに気ぜわしくビールで流し込んだ。なんだか自分の思っていたものと全てが違っていて勝手に上滑りしている。(この旅行に期待しすぎだった?あれ、そもそも俺は何を楽しみにしていたんだっけ?)


部屋に戻るとすでに四人分の布団が敷かれていた。俺はフロントに電話をかけた。

「焼酎ボトル一本と麻雀卓をお願いします。」

三人とも動揺したようだった。

「え?今から麻雀するの?」

「お前らみんな好きじゃないか。今夜、寝られるなんて思うなよ。」

ニヤリと笑う俺。

「マジか!ここまで来て徹マンか」

「勘弁してくれよぉ。」

そう言いながらもはしゃいでいる馬鹿三人。いや、俺もいれて四人。男同士の旅行なんて本来こういうものなのだった。   

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男たちの旅 光河克実 @ohk0165

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