傷ついた男

闇夜の住人

傷ついた男

幸司 高校時代

 俺の名前は神山 幸司。家族構成は両親と俺の3人家族。他には特に言う事は…ああ、あるな。隣に住む幼なじみの加納 美咲と付き合ってる。

 美咲とは幼なじみとしてずっと仲良くやってきたけど…高校1年の冬に俺から告白した。美咲は喜んで受けてくれたよ。

 俺達も高校3年になって進路の事を考えなきゃいけない。できれば同じ大学に行きたいと思っているけど…学力に少し差がある。

 俺が少し手を抜いて美咲のレベルまで落とせばいいのだろうけど…両親がそれを許してはくれないだろう。だから俺が美咲の勉強を見てやる事にした。今からじゃ難しいだろうけどできる事はしておきたい。


 「わからない事があれば聞いてくれ」


 「勉強は好きじゃないんだけどな…」


 文句を言いながらも美咲はちゃんと勉強してくれた。たまに息抜きとか言って甘えてきたけど…少しくらいならいいだろう。

 まあ、そのせいか美咲の学力はあまり伸びなかった。美咲に教えなきゃいけないと思って復習していた俺のほうが伸びてる…


 夏になる前くらいから美咲があまり勉強しなくなった。…それどころかウチに来る機会も減ってしまった。最近、勉強ばかりだったから嫌気が差したのかもしれないな。気晴らしにデートに誘ったが断られてしまった。…拗ねてるのかもしれないな。


 夏休みになっても美咲とはあまり会えなかった。なんだろう…バイトでもしているのだろうか?そんな話は聞いていないけど…

 何度も連絡したが…毎回断られた。俺はもう美咲と同じ大学に行く事は諦めて2人で過ごす時間を大切にしようと思っているんだけどな…


 夏休み明けに教室で美咲と会うと面倒そうに対応された。美咲の隣には…女癖の悪さで有名な隣のクラスの藤本がいる…まさか…


 「コージ。私と別れて。私、藤本君と付き合うから」


 「…は?」


 「は?じゃねぇよ。夏の間に美咲は俺の女になったんだよ。わかったら2度と近寄るなよ」


 「おい…待てよ…」


 「コージ。ウザいから消えてくれない?」


 …夏の間に?たったそれだけの付き合いで俺との15年以上の付き合いを捨てるのか?

 クラスの中でイチャつき始めた藤本と美咲…なんだコイツら…ナンナンダ…


 「幸司。こっちに来い。こんな奴らとはもう関わるな」


 友人の明弘に引っ張られて2人で教室から離れた。さっきまでの光景はなんだったんだ?美咲が…藤本と…?

 明弘に中庭にあるベンチに座らされた。明弘は凄く辛そうな顔をしている。


 「…明弘…さっきのは…?」


 「…加納は藤本と付き合うそうだ」


 …なんでだ?美咲の恋人は…俺だぞ…


 「…幸司」


 「訳わかんねえよ。なんでそんな事になってるんだよ…」


 「俺にもわからん。加納は…どこかおかしかった。以前の加納とは雰囲気が違う」


 「俺のせいなのか?俺の何が悪かったんだ?どうすれば美咲は…」


 「…諦めろ。加納のお前を見る目は…夏休み前とは全然違ってた」


 「諦められる訳ないだろうが!美咲は…美咲は俺の彼女だぞ!」


 「…それでもだ。あれはお前の好きだった加納じゃない。…藤本の女だ」


 藤本の…女…


 「お前は何も悪くない。悪くないけど…聞き分けてくれ」


 「だって…美咲は…」


 「…加納は…もう藤本の女なんだよ…」


 「ぁ…」


 視界が歪む。…泣いたのなんか何時ぶりだろうか。久しぶりすぎて…止め方が全くわからない。胸が痛い。呼吸すら辛い。それでも涙はとめどなく溢れてくる…美咲との今までの思い出が全て涙になって溢れて出てきているようだ…


 ひとしきり泣いた後の俺はまるで抜け殻のようだったと後から明弘に言われた。正直、それから数ヶ月の間の記憶はところどころ抜けていてよく覚えていない。

 俺が覚えているのはクラスの中で美咲を見かけなくなった事。俺が捨てられた時に近くで見ていた友人達がずっと俺の心配をしてくれていた事くらいだ。明弘は特に心配してくれた。



 大学は第一志望に受かった。取り憑かれたように勉強していたからな。学力が落ちてあの女と同じ大学に行く事になったら…考えるのも嫌だ。気分が悪くなる…


 高校を卒業する頃には何とか普通に会話ができるくらいにはなっていた。ずっと心配してくれた友人達にお礼を言う。皆が守ってくれなかったら…俺はきっと潰れていた。

 明弘とは違う大学になる。お人好しな親友は最後まで俺の心配をしてくれた。ありがとう。お前のおかげで…俺は1人でも歩いていけると思う。元気でな。


 あの女の事は知らない。会っても話す事なんか無かったし…もう…興味は無いから…

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