小さなラビリンス

宙色紅葉(そらいろもみじ) 週2投稿中

小さなラビリンス

 さっきから、同じようなところをグルグルと回っている気がする。

 どうしよう、どうしよう。

 お父さんとお母さんはどこにいるんだろう。

 自分の両端にあるのは、棚、棚、棚。

 本をギッシリと抱え込んだ本棚だ。

 アレが落ちてきたらどうしよう。

 きっと私なんて、ひとたまりもないよな。

 私は、何も言わずにこちらを見下ろす本棚を眺めた。

 本の表紙には、車の写真がある。

 内容は分からない。

 でも、お父さんもお母さんも、こういう本は読まないよな。

 私は、その棚の列から出た。

 辺りを見回す。

 次は、どの列に入ったらいいんだろう。

 お父さんもお母さんも、きっと私を探している。

 私はもう、小さな子供ではないけれど、お父さんとお母さんは私を探して、児童書や絵本のコーナーにいるのかもしれない。

 行ってみよう。

 小さい子の本のコーナーは、場所が分かりやすいから行けるんだ。

 私は、本の群れの中を早足で進んだ。


 小さい頃から何度も来ている本屋。

 私は本が大好きだし、この本屋も好きだ。

 棚の本を眺めているだけでもワクワクする。

 だから、両親から離れて一人で本屋の中をうろついていた。

 でも、この瞬間の本屋は嫌いだ。

 怖くて怖くてたまらない。

 両端の本棚が化け物みたいで、この場所が異世界みたいに思える。

 親とはぐれると、もう一生会えないような気がする。


 不安から、私の足はせかせかと動く。

 結局、子供向けの本のコーナーに両親はいなくて、何度も何度も探したはずの漫画のコーナーにいた。

 ちなみに、こちらのことを探してもいなかった。

 そりゃそうか、私はもう、店内での迷子を恐れるほど小さな子供ではないのだから。

 拍子抜けすると同時に、酷く安心した。


 私は今、子供ではない。

 店内マップも大まかに頭に入り込んでいるし、スマホだって持っている。

 それでも、一人きりの本屋が少し怖い時がある。

 そんなとき、頭の中を幼い頃の記憶がよぎる。

 随分と、小さな迷宮だったな。

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