本をもとめて本屋に向かうよりは

ViVi

いきなり“本屋”と言われても

 いきなり“本屋”と言われても、正直なところ対応に困る。


 現在は西暦2023年、和暦で言えば令和5年の三月――うっかり前年の数字で書いてしまうことは、もうなくなった頃合い。

 あるいは、あと一ヶ月弱で年度をまたいでしまって、また間違えが多発するようになる、すこし前。

 いや、この場合、月はあまり関係がないか。ともかく、2023年である。

 現代である。


 現代において、“本屋”という概念は、もはや現実的なスポットではなくなっている。


 なにか書籍を購入したいとして……、真っ先に当たるのは、言うまでもなく電子書籍のプラットフォームだ。

 最近ではもう、およそあらゆる新刊は、電子で提供されているといっていい。

 わたし個人の感覚でいえば、電子で提供されていない本は、存在しないに等しいとすら思っている。

 まあ、わたしのことはともかくとしても、カクヨム――すなわち一種の電子テキストプラットフォームに好んでいるアクセスしているような人ともなれば、おおむね大同小異だろう。


 もし仮に、古い本などで、どうしても紙媒体でしか存在しない情報にアクセスしたいとして――そのときにアプローチするのは、本屋ではない。通販サイトだ。

 通販で在庫がないのなら、次は一気に図書館になる。(通販で手に入らない本を書店をめぐって探すなど、まったく現実的ではない)


 ……このように、“本屋”の出る幕、“本屋”に行く機会など、まったくといっていいほど、ない。

 皆無だ。


 そのくせ、ひとむかし前までは街中にふつうに、いくらでも実在したという事実が、また厄介である。

 日常にあるものでもなく、イメージしやすいものでもないが、かといってまったくのファンタジーでもない。2023年を生きる現代人でも、いくらか記憶にとどめている人は多いだろう。

 だから、お題、つまり話のネタとしては、なんとも扱いに困るというほかないのだ。

 これがたとえば“古城”だとか、“地下墓所”だとか――それなりにエキセントリックなワードなら、それ自体をツカミにすることも不可能ではないのだが……。


 それにしても、こんな難しいお題を一発目にもってくるなんて、KAC2023はなかなか挑戦的だと思う。


 でも、カクヨムの、しかも短編作家となれば、それは妖怪変化か、もしくは奇人変人と近似するワードだからな……。エキセントリックさにおいては、古城や地下墓所の比ではない。墓場で運動会をしているレベルだ。昼夜問わず。

 (言いがかりに思われるかもしれないが、しかしごく最近、かなりエッジの利いた作品がなんらか受賞していたことは、これを読んでいる皆さんは知っているはずである。思い出していただきたい)

 そんなかれらの集まり、いわば百鬼夜行を前にするならば――そのくらいの先制攻撃をかますくらいでないと、やってられないのだろう。

 きっと、本をもとめて本屋に向かうよりは、よほど現実的なアプローチだ。

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