レベル8

蓬国編

第50話 マイ馬車!


 1


 美嗣は西のルワール村でそれの完成を待っていた。何度も工房へ覗きに行って、カインに注意されるほどであった。職人が呼びに来ると、木の香り漂う室内に案内される。出来上がった馬車を見て、美嗣は飛び跳ねながら喜んだ。


 マイカーならぬマイ馬車を購入しました!イエイ!


 縦2.5メートル、横1.8メートルの木製の馬車。前の座席まで覆う幌で雨風を防ぎ、カーテンを閉じれば外からの視線も遮れる。荷台部分には座席ではなく、布とクッションを入れたお座敷を造った。


 靴を脱いでそこで寛げて、就寝できるようにデザインしてもらった。これは移動手段でもあり、家でもあるのだ。


 造りはシンプルなものだが、自分達で修理することを考えればその方が都合よい。美嗣は荷台の一部に靴を置いて、クッションの心地を確かめる。マットレスも寝具店で特注したので、寝心地最高!


 四人で川の字になって眠っても大丈夫な大きに喜ぶ美嗣。ころころと寝返りをうつ美嗣を見て職人が「馬車にベッドを付ける人は初めてみた」と感想を述べる。カインは苦笑いをして、用意していた馬を馬車に繋いだ。



 次の日に出発を控えた美嗣達は中層ハウスの人達に祝ってもらった。ローブ王国で慣れ親しんだ料理をみんなで囲む。鶏のガランティーヌ、春野菜のキッシュ、ポトフにミルフィーユ。ワインもしばらく飲めなくなると思い、存分に味わった。


 途中で騎士団の3人が顔を出してきて、餞別を貰った。クロエからは保存できる食料品、アーシェからは日用品、ガエルは神装備。カインはエメの形見であるワインをガエルに預けた。

 飲み歌い、語らいながらローブ王国での最後の夜は更けていった。



 蓬国へ行くルートは二つ。

 北からのルートか南からのルートになる。蓬国はローブ王国から見て東にあるのだが、真東は紫霧の森な上に、最近までは竜王が棲みついていたので、通行できない。なので古来より真東を避けた順路を通ってきた。美嗣達はローブ王国の最南端の町・シナに向かう。


 正午過ぎにシナ要塞を通り過ぎ、道なりに馬を進める。美嗣はカインの隣に座り、周囲の森と山々を眺める。一応見張りのために双眼鏡をもっているのだが、何もいないのが分かりきっている。後ろの二人も会話がなく、断続的なわだちの音だけがリズムを刻む。


「暇だな~」


 音楽プレイヤーってこの世界にないのかな?バラル帝国ならありそう。もっと娯楽品を持ってくれば良かったと反省しつつ、双眼鏡を覗く。


 日が沈んできたので街道を外れた原っぱに停車する。少し先に廃村があるのだが、雨風を凌げる場所は総じて、盗賊や浮浪者の溜まり場になっているので近付かない方がいいらしい。


 干し肉と保存用のパン・水で夕食を済まし、交代で寝る準備をする。途中で仮眠をとっていたレイが先に見張りをして、カインが馬に食事を与えて寝かし付け、3人がベッドで横になる。


 馬車旅1日目は何事もなく終わっていった。

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