第28話 ゲームじゃない

※残酷な描写が含まれます。ご了解下さい。


風刃ふうじんよ!切り裂け!」


 1780の4段攻撃の後に19500の一撃。

 計26620のダメージが入る。カインのレベルも46になり、攻撃力1128、神力402になった。他の冒険者も攻撃を当てて、合計5万近くのダメージを与えた。体力15万のゴルドバベラムからしたら、3割程度しかダメージを受けていないが、この攻撃を3回繰り返せば確実に勝てる。


 起き上がったゴルドバベラムは再び硬化膜を張り、攻撃を防いだ。だがここで、美嗣にとっては予想外の出来事が起こる。岩陰の向こうから竜が加勢してきたのだ。その数は目視できるもので10体。ゴルドバベラムへ全ての火力をぶつけなければならないのに、戦力の増加などゲームではない事だった。狼狽える冒険者達にエメが的確な指示を出した。


「グレック!ヨナ!襲ってくる竜達を何とかして!ゴルドバベラムは私達が引き受ける!」


 エメは2つのパーティーリーダーに竜の相手をさせた。すぐに標的を変えたが、竜数体相手の討伐も楽ではない。おまけにゴルドバベラムへ割ける火力が減った事で、時間が冒険者達を追い詰めていく。堪え忍んでいる冒険者達目掛けて、ゴルドバベラムは炎業落下を放とうとしていた。


「シールドを展開してぇ!」


 美嗣は叫んだ。

 エメともう一つのチームは無敵シールドを張ったが、右側のチームはシールドを張れなかった。竜の攻撃を防ごうとして、奥義を使ってしまったからだった。落とされた火の塊は容赦なくそのチームの者を焼ききった。


「あああああぁぁぁぁっっ!」

「いやぁぁぁっ!あああっ!」


 燃える人影が断末魔を上げて躍り狂っている。地面も燃えたいるため、美嗣達にも熱さの痛みはあるが、目の前で起きている惨状に痛みなど感じられなかった。およそ十数名が焼き殺された。ゴルドバベラムの即死攻撃に慄然となる。


 熱さから逃れようと一人がこちらのシールドの中に飛び込んできた。アリアナがスキルで回復を行ったが間に合わず絶命してしまう。皮膚や肉が焼けてほとんど人相が分からなかったが、下層ハウスにいたあの男の一人であった。美嗣に助けを求めたのか、それとも無我夢中だったのか分からないが、火だるまになりながら向かってき姿が恐ろしかった。


 1チームの全滅は戦闘意欲と注力を削いだ。なんとかゴルドバベラムの硬化膜を剥がしたいが、竜がそれを阻む。隙を突いて冒険者達を連れ去るので、隊列も崩れてきた。


「美嗣……」


 悲鳴と断末魔、咆哮と喧騒の中、レイの声が美嗣の耳朶へ響いた。隣にいた少女は人形のように澄ました顔をしている。


「このままだと全員死ぬぞ……」


 彼女は冷徹に忠告する。レイの冷めた目を見て、美嗣は平常心を取り戻した。

 今一度、状況を整理した。竜は5体飛び交い、ゴルドバベラムの体力はまだ3分の1しか削れていない。皆の体力も削れてきて、回復も間に合っていない。


 目の前の巨竜に体の芯から恐怖と絶望が込み上げてきた。これはゲームじゃないんだ。死んだらリスポン出来ない。惨たらしく無様な死が待っているだけ……。死を痛感した美嗣は声が嗄れるほど大声で叫んだ。


「撤退しようっっっ!」


 カインはエメと顔を合わせた。

 エメはグレックに指示を出して先頭を任せた。竜を退きつつ退路を確保する。一番最後にエメのパーティーと美嗣のパーティーが殿しんがりを努めつつ後退する。竜の勢いは止まらなかったが、美嗣は冷静さを取り戻して、奥義でカインのアシストをした。


 2体落として洞穴まで後退したが、再び予想外の事が起きた。ゴルドバベラムが突進してきたのだ。フィールドからある程度離れたらキャラは攻撃を止めるはずなのに、これもプログラム通りではないという事なのだ。


 その巨軀で踏み潰されそうになったが、エメの奥義がなんとか間に合った。黄土色のシールドが美嗣達を護ってくれたが、同時にそれがエメの枷となった。シールドを解けば全滅する。だから、エメはここに留まらなければならなくなった。


「カイン!行ってぇっ!」

「エメっ!」

「早くぅ!」


 エメの叫びに感化され皆走り出した。美嗣だけはエメに近寄ろうとしたが、カインが抱えて走っていく。


「いやぁ!エメ!エメぇぇぇ!」


 エメは振り返って微笑んだ。美嗣を悲しませないためだ。どこまでも人が良く、優しく、強い人なのだ。


 ああ、私はなんて馬鹿だったんだろう……。

 こんな状況にならないと分からないなんて……。

 どうしてゲームと同じ感覚でいたんだろう。

 これは現実なんだ。死んだら復活なんてできないし、メインとかモブとか関係ない。

 死は平等だ。悪人の上にも聖人の上にも降り注ぐ。不平等で不条理だ。


 カインは外へ向かって走り抜けた。美嗣にエメの最後を見せたくなくて、涙も振り払って駆け抜ける。最後を走っていたレイは後ろを振り返る。そこには死屍累々と力尽きてシールドを張れなくなったエメが項垂れていた。

 ゴルドバベラムの躰が落ちてきて、彼女の天運が尽きる瞬間を目にし、レイはその場を立ち去った。



……………………………………………………

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