第8話 私が最強にする!

 目覚めたカインは美嗣を置いて朝食を取りに行った。戻ってきた彼が持っていたのは『青い実』と水であった。毒でも持っていそうな真っ青な梨をそのままかぶりつくと、芳しい香りと高い糖度が口いっぱいに広がる。

 実がぎっしり詰まっているため、3個食べれば腹を満たせた。水で喉を潤しているとカインが口を開く。


「家はどこなんだ?送っていく」


 助けてくれた上に家まで送り届けてくれるらしい。だが、異世界転生した美嗣にとって、今は家も家族もいなかった。


「あ~、家も故郷もないし、家族……もいないんだ。ずっと旅をしているの!」


 確かこのゲームの主人公も根なし草の流浪人であったので、それで話は通じるだろうと踏んだ。カインは「そうか」と呟いて、王都へ向かうことを提案する。美嗣は最適解に異論はないが、ひとつ提案したい事があった。


「あの!私はミツグといいます!私も冒険者になりたいと思っているので、カインの相方にしてくれないでしょうか!

あなたを『世界最強』にしてみせます!」


「断る」


 美嗣の提案をカインは拒否をした。冒険者はパーティーを組むのが普通なのに、彼は徒党を組むことを好まない。一匹狼の彼を『孤高の風』と呼ぶ人もいる。

 だが、美嗣は押し続けた。

 カインは情に熱く優しい性格だと知っているので、天涯孤独で右も左も分からない美嗣を見捨てるはずないのだ。しぶしぶ了承したカインに、美嗣は強化案を提示する。


「じゃあ!まずは、武器と礼装から整えていこうか!」


 怪訝な顔をするカインを横目に、美嗣はまずカインの武器と礼装を閲覧する。


【武器 懐古の旗 レベル50 攻撃力257 回転率21.8% スキルを当てた後8秒間、通常攻撃の速度を上げる】


【礼装 途の先へ レベル50 防御力381 耐性力25.6% 攻撃を受けた時25%の確率で攻撃力を+60上げる】


 うっわ!武器のレベルが50とか終わっているわ~。回転率が上がるのはいいけど、今は攻撃力が上がる武器が最適だ。攻撃力は火力に直結する。


 鍛冶屋に行ってレベルを上げれば【懐古の旗】も使えるけど、今は美嗣が持っている【白亜の記憶】の方がカインには合っている。礼装も然り。美嗣は取り敢えず、武器と礼装を自分のと交換させた。これで攻撃力が+603まで上げられた。


 カインが持っていた礼装は売ればお金になるので、一旦圧縮して鞄にしまった。甲冑なしの軽装備になった美嗣をカインは心配したが、自分はサポーターだからと説き伏せた。装備は美嗣のも含めて『ゴミ』だったので、装備させずにカインの強化を終了した。


……

武器 白亜の記憶 レベル90

礼装 常勝の誓い レベル90

装備 なし

……

体力  5951

攻撃力 890

防御力 568

神力  253

加護力 15.8%

耐性力 0.9%

蓄積率 1.6%

練度  11.6%

運   6.5%

……


 うーん、一先ず攻撃力を上げたけど、連度と運が絶望的過ぎる。アタッカーとしてはまだ土俵にも立ててない。美嗣はカインの数字にがっかりしながらも、変化の度合いを見たいと思い、森で魔物退治を提案する。



 日が完全に昇り、陽気な森の中を歩く。スカーフとタンクトップと短パン姿でも大丈夫なくらい心地よい気候であった。山道を歩いていると、目の前に茶色いスライムが見えてきた。


 泥スライムは当たると動きが鈍くなり、たまにつぶてを飛ばしてくるモンスターだ。美嗣はカインに泥スライムを倒すように指示する。その時、美嗣のスキル発動後に攻撃を仕掛けるように付け加えた。


 美嗣のスキル、もとい主人公のスキルはサポート効果がある。スキル『一陽来復』は発動すると攻撃力+30%、神力+25%、運+15%も上げられる。


 『新領』はキャラゲー故にアタッカーは他のキャラを使う事を想定しているので、主人公はバッファーの役割を与えられている。美嗣がスキルを使った後、カインが攻撃を仕掛ける。


 今のカインは攻撃力1157、神力316、運21.5%になる。カインの剣がスライムを裂くと、『620』のダメージを食らわしてワンパンで倒してしまう。カインは力の差を実感して驚いていたが、美嗣の心の声はこうであった。


 よっっっっっわ!

 ええ?通常攻撃一発620?嘘でしょ!私が育てたカインはバフ入れれば、一発12500はいくのに、弱くない?


 美嗣は落胆する。確かにまだレベル40で、改善点や伸び代があることを鑑みれば、落ち込むことではない。けれど、高火力、高ダメージに慣れた者には3桁のダメージはショボく見えるのだった。


 許せない!

 私のカインが弱いなんて絶対許せない!

 これから私があなたを世界最強にしてみせるぅっ!

 こうして美嗣の推しキャラ育成の物語は始まった。



……………………………………………………

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