第5話 推しキャラ
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温かい体温を感じながら意識を覚ます。揺られる感覚と吐息が断続的に感じ取れた。目を開けると揺れる地面が見え、右に視線を向けると耳に光るピアスが揺れていた。それは銀色の葉の形をしており、白銀の髪と共に揺れ続いていた。美嗣はようやく誰かにおぶられている事に気付く。
「わぁっ、あ、あ!」
驚いて体を動かしてしまい、体勢が崩れそうになる。背負っていた人物が体幹を働かせ、何とか落ちずに済んだ。彼はゆっくりと美嗣を地面に下ろし、様子を窺う。
「大丈夫か?」
美嗣は大丈夫だと答えたが、何故か足に力が入らずその場にへたり込む。彼が銀の筒を差し出してきたので、それを受けとる。恐らく水筒だと思い、蓋を取って口をつけると冷水が流れてきた。氷が入っている様子はないので、たぶん神力による冷却効果がかけられているのだろう。
美嗣は少し冷静になって、状況を整理する。どうやらこれは夢ではなく、本当にゲームの世界に来てしまったらしい。異世界転移?転生?というやつだろう。自分は亡くなったのか?最後の記憶は倒れた所までだ。
まぁ、明確に死を判断できなくても、すぐに帰れないと考えた方が良いだろう。そうなると、この世界で生きていかねばならなくなる。
美嗣は思考を巡らせ終わると、目の前の男性に意識がいく。檀蝋から助けてくれたのが彼ならばお礼を言わなければならない。美嗣は水筒も返そうと顔を上げると、彼の人相に息が止まりそうになった。
銀色の髪に褐色の肌。見下ろす眼は青と黄色のグラデーション。10代の青年であるが骨格はしっかりしており、防具を纏った姿は威圧を放っている。彼の名は『カイン』。美嗣の最推しキャラである。
「いあぁぁぁぁっっ!うはぁ!あっあっぁっああ!」
驚愕のあまり、水筒を放り投げ、再び地にへたり込む。カインは投げられた水筒をナイスキャッチして、そのまま美嗣を見下ろす。
「カっ、カカっ、カ、カイン!ええ、なんで、どうして、本当にぃ?」
「俺を知っているのか?」
うおぉぉぉっっっ!ゆ~たんの声だぁ!
そのまましゃべっとるぅ!てか、返答しとる!会話しとる!表情が動いとる!息しとる!存在しとるうぅぅ!
様々な感情が沸き上がり過ぎて収拾がつかない。異世界転生がどうとか、これからの生活の事とかの疑問や不安が一気に吹き飛んだ。
「ふぁっ!ふぁっべぇい!」
美嗣は興奮と動転のあまり自分を思いっきり殴った。手甲の巻かれた拳は硬く、血が出るほどにダメージが入った。カインが心配して更に話しかけるが、その度に受容が追い付かず、自傷で抑えつけていた。
だめ!だめっ!だぁめぇっ!推し
「あっ、あの、あああありがとうございます!たた、たしゅ、助けていただいてぇっ!」
「ああ、……無事?で良かった」
先程から心臓が破れそうだ。よく転生して推しキャラと会えるラノベがあったけど、その人達ってどうやって会話してるの?目も合わせられないんだけど!
美嗣は石のように硬くなってしまい、その場から動こうとしなかったが、カインは無理矢理美嗣を立たせて歩かせた。ここはまだ森の中だ。魔物が彷徨いている場所に留まる事はできない。
数十メートル先に小屋があるので、そこまで避難する事にした。歩いている間、美嗣は心ここにあらずだった。
カインのイラスト
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https://kakuyomu.jp/users/ki_kurage/news/16817330657619969244
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