第3話 転生
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鳥の
朝露が頬に当たり、草の匂いが
青白く光る花弁は触れると光の粒を放ち、それが他の花々にも波及して、星の海のように暗い森を照した。
「わぁぁ!きれい~」
美嗣はその幻想的な光景に目を奪われ、自分の状態を確認するのが遅れてしまう。広げた手を見てみると、手甲が着いていた。
手の甲から腕にかけて白と青の装備が伸びており、視線を肩から胸へ落とすと同じデザインの甲冑を身に
「何これ?コスプレの趣味はなかったと思うけどな……」
美嗣は体勢を変えて更に全身を確認する。下は短パンにニーソックス、足にも脛当が装着されており、重量を感じる。
どこかで見た装備だなと思いつつ、体を起こして見ると腰にも重量を感じた。剣を帯刀しており、触るとずしりとした重さと細かな装飾が感じ取れた。
訳が分からず立ち上がり周囲を見渡す。花畑の向こうは森林だった。木漏れ日が射し込んでいるが、道は見えない。
美嗣は歩き出して探索を始める。どこまでも木に、苔に、葉っぱのみ。目印になるようなものもなく、居場所を特定できる何かもない。慣れない足取りで山道を歩いていると、数メートル先に緑色の物体が見えた。
ぷるぷるのゼリーのような形態だが食べ物ではない。そこには目玉があり、ヌメヌメと動いている。ファンタジーでは定番の生き物、スライムであった。
「わぁ!も、もしかして、スライム?かわいい~!」
美嗣は非現実的な生物に、何の疑問も抱く事なく近付いていく。すると、スライムも美嗣に気付いてこちらへ跳ねてきた。水の入った風船のように、ポヨンポヨンと音を立てながら、美嗣に向かって体当たりをしてきた。
「痛ったぁっ!なになになに?」
急に襲われた美嗣は理解が追い付かず、棒立ちになってしまう。その間、スライムは2度、3度と美嗣に攻撃を加える。
その時【-128】という『数字』が宙に浮かんでいた事に美嗣は気付かなかった。美嗣は喚きながら逃げ出した。走ってみると装備している甲冑が重く、剣が足に当たって痛い。
「きゃあぁぁぁぁぁぁ!」
後ろのスライムを確認しながら走っていると、段差に気付かず滑り落ちた。落ちた痛みに悶えていると、スライムは美嗣を見失ったのかポンポンと跳ねて遠ざかっていった。
「はぁ、びっくりした~」
起き上がった美嗣は一呼吸して、近くの川へ近付いた。川の水面で自分の姿を確認すると、眠る前に見たゾンビのような顔色はなく、血色の良い女性が映っていた。
茶髪のボブカット。左側だけ結んだ髪がぴょんと跳ね、その上にウツギの花髪飾りが付いていた。首にはスカーフが巻かれ、全身に白い甲冑を身につけていた。
美嗣はその姿にピンときた。『神領』の主人公の初期装備の格好であった。もはや、ゲームのやり過ぎで夢を見てしまったらしい。
「なんだ~。ゲームの夢みているのか!確かにさっきのスライムも見覚えあるし、この剣は『白亜の記憶』だったね!」
夢を見ているんだと結論付けた美嗣。
いっその事、夢を楽しもうとした。ここがどこか分からないが、川上に向かって歩き出す。マップを開けないかと思ったが、ゲーム画面のような物は視界にないし、アクションも起こせない。
どうせゲームの夢を見るなら、シャルル城とかアニエル大聖堂とかサン・ミカ街へワープして観光したかった。こんな何の変哲もない森の中を歩いても楽しくない。
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