百語られ

大黒天半太

語り、語られ、語らせ、語る

 『百物語』って知ってる?


 そうそう、大人数で集まって、一夜の間に百の怪談話をして、灯した百本の蝋燭の灯りを、一本ずつ消して行くって、アレ 。


 灯明の灯芯を抜いて行く、って言うのもあるらしいね。



 でも、『百語り』ってのは聞いたこと無いでしょ?

 君、恐い話はダメな人?



 百語りの決まりは、まず第一に、する恐い話は一つだけ。


 その話をする時は必ず夜で、語り手と聞き手は、今みたいに一対一で。


 複数の人を相手に話すのも、メールしたりネットに書き込んだり、何かに書いて読ませるのも、もちろんダメ。


 そして、大事なのは、聞き手が、初めてこの話を聞く人であること。


 もう、わかった?


 これは、一つの怪談が、人から人へ百回語り継がれるって話。


 昔々ある所に、物好きな男が居た。家が裕福なもんで、趣味の奇妙な古書を山のように買い漁っては、今まで見た事も聞いた事もないようなマイナーな妖怪や幽霊の噺を喜んで読んでた。まぁ、今で言うマニア、妖怪オタクだね。


 ある時、彼は気付いた。これらの本が世に知られてない以上、この中の妖怪達は、自分以外の誰にも知られていないから、存在していないのと同じだってことに。


 人口に膾炙することが、妖怪の存在の基準となるなら、何人が知り、何人が語れば、彼らは存在することになるのか。


 百語りは、その人数を数えるために考案された、と言う訳さ。


 今、驚いたね? 君にも見えるようになったかい? それが、彼が醸した妖怪『百語り』だよ。


 その話を知っている者にしか、その姿は見えず、話の聞き手が語り手になって、次の聞き手に話すまで、その妖怪は君の傍に居続ける。


 ただ、それだけだったが、一つ誤算があった。

 人は時が流れれば、忘れるし、死んでいく、ってこと。

 一旦存在し始めたその妖怪が、存在し続けるためには、語られ続けなければならない、ってこと。


 だから、今ではこうも呼ばれてる、妖怪『百語らせ』或いは妖怪『百語られ』ってね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

百語られ 大黒天半太 @count_otacken

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ