桜井紫乃

「え、えーと、どういうことですか?」


 桜井紫乃さくらいしのさんは、僕――高本雄二たかもとゆうじを知っている。


 しかし彼女は、本当の僕ではなく、配信者のyouだと答えた。


 髪型を変えたので、気づいてないのだろうか。



「ああ、すいません。びっくりさせてしまってしまいましたね……。私の名前は桜井紫乃さくらいしのと申します。最近転校してきたんです。配信を見るのが好きで、そのyouさん……怖かったですよね」


「あ、……ええと、僕……のこと……わかりませんか?」


「え? わかりませんかというのは……?」


 そこでようやく気付いたのか、ああ! と驚いて声をあげた。


「もしかして、高本雄二たかもとゆうじさんですか? あれ? え、じゃあ、youさんって、同じ人物!?」


「ええと、はい……そうです」


 桜井さんがびっくりして目を見開いた瞬間、チャイムが鳴り響く。


「あっ、行かないと!?」


「そうですね、話はまた後で」


 急いで二人で走る。なんと――彼女と同じクラスだった。


「おはよう、紫乃さん」

「おはよー! 今日も桜井さん可愛いねー」


 どうやら彼女は転校生にも関わらず、大人気らしい。


「お、高本じゃん」


 そして、俺をいじめていた奴が、俺を見るなり嬉しそうにした。


 一時限目がすぐに始まったので声をかけてはこないが、おそらく次の休み時間に来るだろう。


 でも、俺は――負けない。


 ◇


「よお、久しぶりじゃねえか。雄二くーん」


 ニヤリと八重歯を剥き出しに、短い茶髪とどでかい図体。

 隣には、コバンザメのような手下を従えている。


 名前は、鬼餓竜おにがりゅう


「鬼餓くん、久しぶり」


「あー? 何だお前、なんか偉そうになってねえか? それになんだその髪? 随分と色気づいたじゃねえか」


 ドシっと、僕の机の上に座る。近くの同級生たちは、関わりたくないので離れていく。


 正直、身体は震えている。けれども、僕は変わろうと決意したのだ。


 髪型を変え、配信でも応援してくれる人がいる。

 

 その人たちの為にも、弱いところは見せたくない。


「いいからあっちいけよ」


「あ? テメェ、いつからそんな口利けるように――」

「もう、僕に構うな」


 言葉を遮り、思い切り言ってやった。

 

 しかし鬼餓は、舌打ちしながら僕の胸ぐらを掴んで来る。


「はっ、じゃあもう一回 ”わからせてやるよ”」


「何度殴られても、僕は君に屈しない」


「はあ、じゃあそうしてみろよ!」


 思い切り右拳を振りかぶる鬼餓。

 僕は避けようと身体を動かす――しかし、次の瞬間、誰かが叫んだ。


「やめなさい!」


 周囲が騒然とする。ゆっくりと歩いてきたのは、桜井紫乃さくらいしのさんだった。


 ひときわ目立つ綺麗な目鼻立ち。


 スラリと背筋を伸ばし、白い腕を振りかぶ――って!?


 バチン!


 教室内に響き渡ったのは、桜井さんが、鬼餓の頬を思い切りビンタした音だった。


「私のyouさんに何かしようものなら、あなたのこと捻りつぶしますよ」


 え、さ、桜井さん?!





 


 


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