大晦日の名探偵

「今年もあっという間に終わりだね」

 こたつで暖を取りながらシエスタがふうと短いため息を吐き出した。

「一年中働いたからな。立ち止まって振り返る時間すらなかった」

 まあこうして年の瀬をゆっくりできるだけまだマシか。この名探偵がそばにいると、年末年始も休めないことが多い。だが今日だけは俺もシエスタも部屋でくつろいでいた。

「とはいえせっかくの休みだし、冬コミにでも行けばよかったかな」

「ダメだ、あそこは教育上よろしくない本がいっぱいあるぞ」

「なんで保護者目線なの?」

 シエスタは物言いたげな表情を浮かべる。

「君だってそういう本いっぱい持ってるでしょ? 誰が片付けてると思ってるの」

「お前こそなんで保護者目線なんだよ。……って、本当に片付けたりしてないよな?」

 深く考えると精神衛生上よくないので、俺はこたつ布団を被りながらお茶を啜る。

「こたつにみかん、おかきにお茶。最高だね。あとは猫がいたらもっといいかも」

「そのうち飼ってもいいかもな」

「飼うんじゃないよ。お迎えするんだよ」

 猫に対する表現に厳しいな。

「でもやっぱり、今は話し相手がいるからとりあえずはいいかも」

「俺でいいのか?」

「地上一万メートルの空の上でお迎えしてしまったからにはね」

「生き物は責任持って面倒見ないといけないんだぞ? 覚悟はできてるのか?」

「なんで君がそんなに偉そうなのかは分からないけど、まあいいよ」

 シエスタは湯呑みのお茶を啜りながら言う。

「責任、取ってあげる」

 だがしばらくの沈黙を経て「それなりにはね」と付け足した。

「なぜ条件を加えた?」

「なんだか、あらぬ誤解を受けそうな気がして」

 シエスタは急に真面目な顔になって、こほんと咳払いをする。

「あとこんな番外編中の番外編みたいな場所であんまり重要な会話しちゃダメだから」

 それは確かに。こたつの暖かさで気が緩んでたか、少し引き締めよう。

 するとシエスタはみかんの皮を剥きながら「ゲームでもしようか」と提案してきた。

「もちろん罰ゲームありで。どう?」

「いいだろう。負けた方が一人で今晩のご飯を作るってことでどうだ?」

「分かった。じゃあ今日は鍋がいい。鍋にして?」

「なんで最初から俺の負けが決まってるんだよ」

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