第11話 終わった村
ネフィルという村の名前は、古い歴史書で学びました。
大聖国ルーチェから最も近く、最も関わりのないその村は外部との交流を避け続けていたそうです。
自給自足で村人たちは貧しいながらも平和に暮らしていたそうですが、ある日、賊の襲撃にあい一夜の内に滅びました。
今から100年以上前の出来事です。
「モルテラ様! ここは危険です!」
「何度も言いますけど一番危険なのはアナタですからね!?」
モルテラ様の手を引いて、家だった瓦礫の山から外に飛び出しました。
壁は無く、外の様子が確認出来るから安全だろう。
そう思っていたのが、最大の失敗でした。
「なっ、何ですかこれぇ!?」
夜の闇の中を、巨大な炎の壁が走っていました。
村の周囲を囲んだ赤黒い炎は、まるで私たちを逃がさないように轟々と燃え盛っています。
この村に入った時点で、私たちは罠にかけられていたのでした。
「……モルテラ様、あれが何に見えますか?」
「馬鹿にしてるんですか! どう見たって大きな火! 火事じゃないですか! 嫌ですよ人間にされてすぐに焼け死ぬなんて!!」
「良かったです」
「何も良くありませんけど!?」
死神であるモルテラ様も、この異様な光景は正常に見えているようです。
さっきは淀みきった虫入りの雨水を嬉々として飲もうとしていましたから。
一安心。
「ていうか早く逃げましょうよ! 村人もみんな逃げてるじゃないですか!」
「そうしたいのは山々なのですが――」
――手遅れです。
赤黒い炎の中から、まるで産まれるように現れるその異形。
「ほ、骨ぇっ!? いや、骸骨!!」
「スケルトンです」
大量の魔物、スケルトン。
死した者の骨に宿った、怨念と悪意。
闇から現れては踊るように旅人を包囲して死へと誘う存在です。
村の広間にあった大量の白骨を、バラバラに混ぜ合わせた寄せ集め。
人の形をしているものの方が稀でした。
それでも人の特徴である頭蓋骨が、どの個体にも何処かしらに固着しています。
あれがおそらく、スケルトンの核。
「どっ、どどどどどうするんですか!?」
数は50をゆうに超えているでしょう。
それが私たちの周囲をグルリと囲みながら、骨と骨が当たる軽い音を幾重にも響かせて近づいてきています。
まるで祭りごとのように、軽快に、不快に。
「安心してください、作戦があります」
「おぉっ! 何ですか!?」
一度大きく深呼吸。
入り込む煤けた空気を吐き出して、腰のメイスを両手に握ります。
「……シャリーネ?」
規模も数も敵も状況も、森で襲われた時とは違いすぎるこの現状を突破する方法はたった一つ。
八方塞がりな時こそ、俯瞰して見るべきだとテネットお姉様が教えてくれました。
腰を低く落とし、構えます。
「……あの、もしかしてですけど」
今が正にその時。
この危機的立ち位置から視点を変える為に行なうべき事、それは。
「正面突破、参ります!」
「期待したワタシが馬鹿でしたよちくしょうっ!!」
有象無象の塵芥、跳梁跋扈する白骨共に救いを与えるべく、私は走り出しました。
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