妖怪書店

口羽龍

妖怪書店

 ここは東京のベッドタウンにある学校の校門。チャイムが鳴り、生徒が帰宅する。今日の学校は終わりだ。帰った生徒には勉強する子がいれば、友達の家で遊ぶ子もいる。彼らは楽しそうな表情だ。


 寿江(としえ)はいつものように学校から出てきた。寿江はまっすぐ家に帰ろうとしている。寿江の母は教育ママで、スポーツよりも勉強が優先だ。寿江はスポーツもできるが、どちらかというと勉強だ。


「じゃあねー」

「バイバーイ」


 寿江は友達の由紀(ゆき)と校門の前で分かれ、家に向かった。今日も帰ったら勉強だ。頑張らないと母に怒られる。母は教育熱心で、テレビゲームすらできない。テレビゲームは夢中になり過ぎて、勉強が厳かになってしまうからしてはいけない、と母に言われている。したくてもダメだ。


「はぁ・・・」


 寿江はため息をついた。辛い日々だけど、頑張れば明るい未来が待っている。そして、豊かな生活を手に入れる事ができるだろう。


 寿江は住宅街に入った。一戸建ての住宅が並ぶ閑静な場所だ。実家まではあと少しだ。帰ったら、勉強をしないと。


 と、寿江は変な本屋を見つけた。薄暗い雰囲気で、古臭い外観だ。看板には『妖怪書店』と書いてある。妖怪書店? 妖怪が経営しているんだろうか? 寿江は首をかしげた。


「あれっ!? こんな所に本屋さんって、あったかな?」


 寿江は気になって、その本屋に入った。本屋の入口は引き戸で、昔の民家のようだ。


「いらっしゃいませ」


 レジの女性が声をかけた。レジの方を向いて、寿江は驚いた。そこには雪女がいる。雪女は水色と白の服を着ている。とても美しい女性だが、表情が暗い。


「うわっ!」

「な、何もしませんよ」


 思わず声を出してしまった寿江を見て、雪女は安心させようとした。自分は何もしない。悪い事をしない限り、人間を凍らせないから、怖がらなくていい。


 寿江は本屋の棚を見始めた。棚の中身は普通だ。だが、客が人間じゃない。河童にカワウソ、狐もいる。ここは妖怪たちの本屋のようだ。こんな場所に来てよかったんだろうか?寿江は少し戸惑っている。


「えっ・・・」


 寿江は振り向いた。そこには鬼がいる。鬼はトラ柄のパンツ一丁だ。棍棒を右手に持っている。


「いらっしゃいませ」


 雪女は鬼が買った本のバーコードを読み取った。会計はごく普通のようだ。


「1300円になります」


 鬼は持っている財布から1500円を出した。


「1500円お預かりいたします」


 雪女はレジから200円を出した。接客は普通だ。


「200円のおつりです。ありがとうございます」


 寿江はその様子を不思議そうに見ている。こんな本屋もあるんだ。だけど、普通の方がいいな。また行きたいと思わない。


「この練習帳、買ってみよっと」


 とりあえず、寿江は練習帳を買う事にした。今の自分に必要なのは練習帳だと思っている。


 寿江はレジに向かった。そこには雪女がいる。


「ありがとうございます」


 雪女は練習帳を見て、何円か確認した。


「600円です」


 寿江は600円ちょうどを差し出した。雪女はお金を見た。


「ちょうどお預かりします。ありがとうございます」


 寿江は練習帳をランドセルに入れて、本屋を出て行った。雪女はその様子を見ている。人間が来るなんて、何年ぶりだろう。どうして来たんだろう。本来は来れないはずなのに。


 寿江は家に帰ってきた。父の車はない。父は帰ってきていないようだ。


「ただいまー」


 寿江は玄関から家に入った。家からはいいにおいがする。母が晩ごはんを作っているようだ。


「おかえりー」


 母の声がダイニングからした。だが、寿江はそのまま部屋に入った。勉強をしなければ。




 その夜、寿江は両親とともにいつものように晩ごはんを食べている。いつもと変わらない、普通の晩ごはんだ。その話題は、常に勉強だ。


「寿江、勉強、どうなの?」

「まぁまぁ」


 寿江は勉強がうまくいっていない。家庭教師を雇ってでも、なかなか成績が良くならない。このままでは母の期待に応えられないかもしれない。


「頑張ってよ。いっぱい勉強して、いい大学に進んでもらわないと」


 母は肩を叩いた。だが、寿江は落ち込んでいる。本当にうまくいくんだろうか? 不安になってくる。


「はい・・・」


 寿江は自信がなさそうな表情だ。母からの命令なのに。本当に大丈夫だろうか? とても不安だ。


「命令よ!」

「はい!」


 寿江はそう答えるしかなかった。母の命令には逆らえない。勉強を頑張らないと。




 その後、寿江は自分の部屋にいた。寿江は本屋で買った練習帳をしている。中身をチラッと見ただけでどんな内容かわからないが、そこそこ難しい。


「はぁ・・・」


 寿江はため息をついた。なかなかできない。だけど母の期待に応えないと。だけど、本当にできるんだろうか? 寿江は不安になった。


 寿江は頭を抱えた。母に見せる顔がない。このままではまた母に怒られる。どうしよう。寿江は悩んでいた。


「大丈夫?」


 寿江は顔を上げた。母だろうか? 母が勉強の様子を見に来たんだろうか? だが、そこにいたのは母じゃない。狐だ。あの妖怪書店にいた狐だろうか? まさか来てくれるとは。でも、どうして? 妖怪書店で見かけて、気になったんだろうか?


「えっ!?」


 と、狐は練習帳を指さした。急に何だろう。教えようというんだろうか?


「ここがわからないの?」

「うん」


 寿江は正直に答えた。狐はとても優しそうだ。どうしてだろう。初めて会うのに、母のようだ。


「これはね、こうして、こうするのよ」

「へぇ」


 こんな素敵な出会いができるとは。この本屋には何かがある。もし見つけたら、また何か別のいい出会いが待っているのでは? もっと行ってみる価値がある。また行ってみようかな?

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